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観察⑴
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しおりを挟む「見たっつってんのにそんなに信じられないかよ!」
それまでは抑えていたが、我慢の限界を超えてしまった。秋が怒鳴りつけたことで、矢代も眉を顰める。
「……辻村と藤本は、去年お前と同じクラス……だったよな」
数学の授業を受け持つ矢代には覚えがあった。
「二人がシてるを見たことがそんなショックなのか?」
「はは。仮に知らない奴らでも、あんなところ見たら普通にショックだと思うよ? でも、俺はその倍ショックだね! だって」
秋は持っていたスマホを、地面に置いた。
「俺二年に上がるまで、辻村と付き合ってたんだ」
彼のことが大好きだった。
だけど、何故か突然フラれた。
なるほど、こういう事だったのか。……自分の他に好きな人ができたから。
「信じらんないよ、未だに……びっくり。あはは……」
放心状態で乾いた笑いを浮かべる秋に、矢代も屈んで地面に膝をついた。
「事情は分かったけど、悪いな。証拠写真がないならノーカウントだ」
「別に、いい」
もう見たくない。
好きだった人間が誰かとヤッてるところなんて……。
大体が、盗撮は犯罪行為なんだ。その代償として考えれば、このぐらいのショックは軽いはずだ。
「う……っ」
────そう思うのに。
押し殺していた感情が爆発してしまったかのように、気付けば涙が溢れていた。自分でも驚くぐらい大粒の涙が、嗚咽に合わせて零れ落ちる。
「秋……」
矢代は少しだけ目を見開いた。
そして、俯く秋の額に手を当てて、無理やり顔を上げさせる。
「……悪かった」
矢代は静かに、しかしハッキリした口調でそう言った。
「馬鹿にしてんだろ、これぐらいで泣くなって……俺もびっくりだよ!」
羞恥心から自暴自棄になり、場所も選ばずに叫んだ。
「でもしょうがないだろ、悔しいんだよ! つうか皆そう! 皆俺とはセックスしてくれなかった!」
「セッ……お前なぁ……」
矢代は頭が痛そうに額を押さえた。
呆れたのか、やや苦笑しながら。
「辻村とは一番長く続いてたのに……! フラれてヤケんなって、ゲイビを漁ったらバレて、今度は盗撮しろって脅されてさぁ……自業自得だけど、もう嫌だ!」
体育館の目の前で、一体何を叫んでるのか。
恥ずかしいし情けないし、頭がおかしくなりそうだった。散々恥ずかしい姿を見られてしまったが、これ以上の醜態は晒したくない。
「もう、ひとりにしてよ……」
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