14 / 70
前後不覚
#4
しおりを挟む「ふぅ……」
枯れ葉が落ちる季節。外は薄暗く、纏う空気を変えてきている。
肩を豪快に回しながら、清心は会社を出た。凝り固まった筋肉をほぐそうとすると鈍い音が鳴るし、二十半ばでこの倦怠感は焦りを覚える。
外回りをこなし、残業をこなしてもボーナスは微々たるものだ。今年は親の仕送り以外貯金に回そうか、等と考えていた。
清心は自身が同性愛者であることを家族に伝えていない。一生伝える気はなかった。傷つけることが分かりきっているし、伝えたところで何かが解決するとは思えないから。
話してしまった方が楽だし、話したら分かってくれるんじゃないか。そんな妄想なら四桁近くした。
けどその度に、アウティングしたことで親と関係を絶つことになった知り合い達を思い出す。外国に比べてまだまだ日本は偏見が多い。絶対的に受け入れられない、という人達がいるのも仕方ないと思えた。
倫理的なものはもちろん、子孫を残せないという危機感。一番恐ろしいのは、異性愛者が自身を同性愛者だと勘違いしてしまうことだろう。
同性愛者で溢れてしまえば世界はいずれ滅びる。ち少し仲の良い同性の友人ができただけで、それを“恋慕”だと錯覚してしまう。
ただ自分は、そんな何百年先か分からないことの心配をする気はない。自分が死んだ後のことより、明日をどう生き抜くかが重要だからだ。
今日は疲れたな……。
腕時計を見るともうすぐ十時になろうとしていたが、今日は白露に会う気分じゃなかった。
こんな疲れた顔で会いに行ったら彼も気を遣って疲れてしまう……。
途中自販機で缶コーヒーを買い、帰路についた。見慣れたというより見飽きた住宅街、静かな公園、虫の鳴く音。なにか一つでも変化を見つけようと、無意識に目が動く。
白露と出会ってから、ちょっとやそっとのことじゃ驚かなくなった。それと同時に、大きな感動もしなくなった。だから刺激を欲している。
あんなにも愛おしい少年。なのに彼の顔も思い出せない。けど心はずっと、彼を求めている。
「……ん」
家の目の前の十字路に差し掛かったとき、思わず足を止めた。
特になにか見つけたわけではないが、思い出したことがあった。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
処女姫Ωと帝の初夜
切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。
七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。
幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・
『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。
歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。
フツーの日本語で書いています。
薬師は語る、その・・・
香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。
目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、
そして多くの民の怒号。
最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・
私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中
純情将軍は第八王子を所望します
七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。
かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。
一度、話がしたかっただけ……。
けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。
純情将軍×虐げられ王子の癒し愛
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる