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胡乱の祭日

#2

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生身の人は脆い。切りつけられたら死ぬし、毒を盛られたら死ぬし、何もせずとも病気で死ぬ。
理想の死に方をできる者が果たして世界にどれほどいるだろう。時間も場所も方法も、多くが納得できない最期を迎える。そういった者達の無念と怨念が集うのが、あの地下────。
暗く、……黒い。

「ランスタッドのベースはこの工場で、要はノーデンス様。少なくとも、この時代はそうですよ」
「……うん」

オッドの真っ直ぐな眼差しを受け、思わず顔を逸らした。手に持ったペンを回しながら、慌ただしく動く職人達を一瞥する。

王城の次に、ここを攻撃されたら終わる。
国民は守らないといけない。だが王族は自分にとっても邪魔な存在だ。……ならテロリストと自分の目的は一致するのでは?
「……さて」
いや、馬鹿なことを考えるな。ランスタッドを脅かす危険な集団は敵でしかない。王族がいなくなったとしても、彼らがその後の収束をできるとは思えない。
街が壊され死傷者が出れば、平和な生活に戻るまで莫大な時間を要する。弱体化したところを攻める国まで現れるかもしれない。
そうなった時自分ひとりではどうしようもない。一国を再建する力がないからなるべく平和に王族を追い出して、上も下もない平らな国にしたかった。かつて一族が助け合って暮らしていたように、貧富の差が生まれない国を。

ここ数年で酷くなった頭痛と耳鳴り。それを押し殺し、真赤に染まる空を見上げた。
壊したいと叫ぶなにかが頭の中にいる。
「今日はこれでお終いにしよう。オッド、悪い……皆に上がるよう伝えてくれ」
「? はい……。お疲れ様でした」
鉄を叩く音が鳴り止まない。
靴音と、それに呼応するかのような荒い息。必死に組み立てたパズルをめちゃくちゃに壊してしまいたくなることが、たまにある。

自分の部屋に戻った瞬間、スーツを脱ぎ捨てて床に倒れた。

「んっ……ふっ、ううぅ……」

頭が痛い。なのに下半身が疼く。身体の火照りを少しでも抑えたくて浴室へ向かった。
冷たいシャワーを頭から被っても熱はひかなかった。床に座ったまま、水溜まりが広がるさまを呆然と眺める。
あ。これじゃまた風邪をひくから水を止めないと。
そう思って伸ばした手が、何故かレバーではなく下半身に下りた。
最も熱くて耐えられないのは、紛れもなくここだ。一度触れてしまえば理性のストッパーが外れ、無我夢中で擦り上げた。
自分の指で押し潰される、赤い肉の塊。その醜さは毎度絶句してしまうが、最後は快感に打ち砕かれる。
普段堪えている部分が弾けてしまったような昂り。それは達するのも早かった。シャワーチェアに白濁の液体が飛び、ゆっくり下へ伝っていく。

射精すれば少しは冷静になると思ったのに、今度は快感の余波が強過ぎて動けない。
日に日におかしくなってる気がする。

「俺……」

こんな時でも唯一身につけている、左手のシルバーリング。自嘲を抑え、自分を抱き締めるように腕を回した。
じっと縮こまり、呼吸だけ続ける。意識が飲まれる瞬間まで床を打つ水の音を聞いていた。






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