ある野望を話したら夫が子どもを連れて出ていった話

七賀ごふん

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四面の形成

#3

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僕の一日はいつも同じ。日が昇ると同時に起床、朝飯を食べて身支度。武器作りの見習いとして工房へ向かい、空が暗くなる頃に切り上げる。

レンツは今年十九になる青年だ。鍛刀を極める為他国で鍛冶を学び、昨年ランスタッドへ帰ってきた。
ランスタッドには全てがある。資源も豊かだし、全体を見れば財政も潤っている。しかしながら一度飛び出してみると、その土地毎に必ず学ぶべき美点があることを知った。気候、文化、人種に言語と、少し移動しただけでそれまでの常識はひっくり返る。以前居た国では礼儀とされたことも、他所の国では無礼にあたる。困惑や災難に見舞われたこともあったが、この経験はお金では買えない価値があると痛感した。

武器をコレクションする者、武道に使う者、はたまた商売の為に求める者……ランスタッドには日々様々な目的を持った者が訪れる。用途も値段も違う多種多様な武器を品定めし、一喜一憂する。
宝飾や骨董品のような感覚で買いにくる富豪を、一族の皆は嫌っている。武器を目にした瞬間一番大きな反応をしてくれるのだが、そういう者に限って本当の価値を分かっていない。鍛冶師が最も力点を置いた「性能」を見ないからだ。見てくれを重視して、周りに見せびらかすことばかり考えている。

宝飾品として売るつもりならそもそも武器の精度を上げる必要はない。だけど手を抜くことは許されず、客は選べず、自分達は金の為に武器を造っている。

争いは起きてほしくない。けど法律の範囲内の決闘、武道なら槍や剣といった武器は重宝され、需要が高い。せめてそういった場に運ばれることを祈り、今日も鍛造から製造まで幅広く仕事する。

武器職人としての誇りは自分や鉱山師も含め、皆持っている。だが唯一の例外は、一族の長でもあるノーデンス様だ。彼は類まれなる力を宿しながら商いに力を入れ、名を広めることに奔走している。
まるでなにかに追われてるようだ。国の為、という感じもしない。彼の仕事に対する熱意は愛国心ではない。強いて言うなら一族そのものを強大にする為必死になっているようだ。

ノーデンス様は父親が一族で最も腕のいい職人だったことと、彼自身に特別な力があったことから弱冠二十二で筆頭者になった。父親が病で亡くなった後、彼は少し変わった。自分はまだ製造に関わっていなかったが、ノーデンス様が物静かな青年だったことは確かに覚えている。どちらかと言うと前に出るタイプではなく、人と関わること自体好きではなさそうだった。ひたすら工房に籠り、昼夜問わず武器作りに勤しむような人だった。

だがその反面、穏やかな性格だったと記憶している。レンツが遠く離れた地に行きたいと言った時、親に口添えしてくれたのはノーデンスだった。彼が意欲と行動力を評価してくれたからこそ、親も賛成し、長い間修行に行くことができたのだ。それは今も感謝している。

吸収力があるうちに外へ出て、異国の技術を見るべきだ。彼がそう言ったことで、若い衆の考え方はどんどん変わっていった。武器だけじゃなく、価値観を変え、発展させたのも間違いなく彼だろう。派手さはないが、彼の言葉は誰もが聞き入れる。影響力を持った不思議な青年だった。

それが、ここ数年で随分変わったように思える。

「レンツ。この剣を作ったのはお前か?」
「あ、はい!」

熱気の篭った製造所に不釣り合いな、純白のスーツ。日に当たったことがないような透き通った白い肌に、白金のような髪。思わず目を奪われる容姿をした青年。
ノーデンスに呼び止められ、レンツは作業の手を止めて駆け寄った。

「あの、なにか問題でも……」
「いや。刀身のわりに軽くて驚いたんだ。女性でも問題なく扱えそうだな」
「持ち歩くには敬遠されそうですけど、女性の剣士用ならお奨めできます」
「良いな。これは試作だろ? 実用化に向けてもう一本作ってくれないか。もし上手くいきそうなら、次の展覧にお前も立ち会ってほしい」

新しい仕事に抜擢されるかもしれない。それは素直に嬉しく、はい! と大きな声で返事した。
……それにしても、相変わらず綺麗なひとだ。手も指も、しなやかで輝いて見える。
ランスタッドに帰って久しぶりに会った時も驚いた。何故か彼は、歳を重ねるごとに美しくなる。それはきっと、“あのこと”も影響してるのかもしれない。
「少し精度を見たいな……」
彼の左手にある指輪を一瞥した時、剣の刃先が宙で弧を描いた。慌てて意識を戻し顔を上げると、嬉しそうな顔を浮かべる彼から思いがけない言葉が飛び出した。

「そうだ、適任がいたじゃないか。お前が俺と打ち合えばいい」






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