7 / 113
独り暮らしの武器商人
#6
しおりを挟む『皆時間が経って、大切な人を手に入れて、忘れてしまったんだ。……自分達がされたことを』
巣穴のような鍛冶場の隅っこに立ちながら、いつも父の話を聴いていた。途中から何を言っても反応しなくなるので、独り言に近い。幼い頃は圧倒的に退屈に感じることが多かった。
彼が自分の世界に入ってしまったら、地べたに座り込んで窓の外を眺める。
その夜は一段と星が見えた。ノーデンスは目を眇め、白い息を吐く。
『私の祖父……お前の曾祖父は、王族に殺されたようなものなんだ。一族の中で殺されたのは彼が最後だった。やっと終戦したのに何故まだ武器を造るのか問い続け、王の命令に背いた。そのせいで牢獄に入れられ、すぐに体を壊して亡くなった。あれが見せしめとなり、皆武器を造り続けることに疑問を抱かなくなった』
父はここで珍しく顔を上げた。どうやら自分に向かって話しかけていたみたいま。いつの間にか座ってることを怒られるかと身構えたけど、意外にも優しく頭を撫でられた。
『私も同じだ。自分の命可愛さに、誰かを傷つける武器を今も生み出している。だがお前は特別な力を持って生まれた。お前が一族を救える最後の希望なんだ』
幼かったから、当時はそんな話をされても頭の中で処理できなかった。
ひとつだけ分かることは、曽祖父は武器造りに反対だったということ。ちょっと意外だった。だって親戚はもちろん、父ですらも、普段は武器造りを誇らしげに語っていたから。
父は自慢と罪悪感を同じポケットに仕舞ってるんだ。半分に分けたら両方軽くなるのに、何でだろう。
武器は人を守るものではなく、人の命を奪う為の道具。それを造ることで長い歴史を渡ってきた俺達は……俺達こそが世界で一番悪いやつなんじゃないか、と子ども心に感じた。でもそれは決して口にしちゃいけない気がして、自分の中で消化した。
王様は一族のことを武器を生み出す兵器だと思ってるんだろう。だから武器造りを拒んだ者を罪人とした。
利用したり利用されたり、難しい立場だ。でも俺達はきっと、正しさを突き詰めたらいけない種族なのかもしれない。
今はただ大人しく鉄を打つ。王に従い、武器を造ろう。
でもいつか、誰にも武器を使わせない世界にする。
───約束する。
「ん……」
「お。起きたか」
暗かった世界が徐々に色を取り戻し、鮮やかになる。
見慣れた寝室のはずだが、息が当たりそうな至近距離に人の顔があった。
「わあ!!」
「おおっ。危ない危ない」
慌てて飛び起きた為、目の前の人物に頭突きするところだった。二重で心臓に悪い。内心舌打ちしながら後ろに下がる。
何だ、この状況は。
「ちょっ……と。いくら陛下でも、人の部屋に侵入するのはどうかと思います」
「ははは、すまんすまん。熱を出したと聞いたから様子を見に来たんだ。知らない間に死なれたら困るだろう?」
やっぱり三重で心臓に悪い。目が覚めたら部屋に国王がいるなんて、普通の人間なら絶叫じゃ済まない。
「ご心配をおかけして申し訳ございません。かなり深く眠ってしまっていたようで」
というのは時計を見なくても分かった。明るかった窓の外が、うっすら濃紺に染まりかけてきている。
「あぁ、良いんだ。いつも休まず働いてるんだから無理をされたら困る。……お前は最近特に気を張ってるようだし」
ローランドはひとつに結いた髪を鬱陶しそうに後ろへ払い、空いてる椅子に腰掛けた。
充分良い家具を与えられているが、国王が使うとなると急にお粗末に感じる。飲み物を出そうにも彼の口に合うものがあるとは思えないし、そもそも警戒して手をつけないだろう。しかしただぼーっとしてるわけにもいかない。
とりあえずキッチンへ向かおうとしたが、裾を引っ張られて立ち止まった。
「病人はじっとしてろ。せっかくだ、夕飯は私が作る」
「夕……えっ!?」
一瞬聞き間違いかと思った。しかし無理やりベッドの上に座らされる。ローランドはキッチンへ入ってしまった。
なにっ……一体何のつもりだ。仕事と関係ないところで恩を売って俺を懐柔しようとしてるのか。
それより妻や親戚を連れて国から出て行ってくれる方がずっと嬉しい。ていうか俺はこれから彼が作った料理を食べなきゃいけないのか。まずい、色んなプレッシャーで気持ち悪くなってきた。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる