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独り暮らしの武器商人

#3

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自暴自棄になっていても仕方がない。
大切なものなんていらないし、そもそも勝手にいなくなったんだし、今後のことを思えば邪魔なだけだ。弱点になるかもしれないものなら捨て去った方が断然良い。

そう思うのに胸が痛いというか、ムラムラ……じゃなくてむしゃくしゃする。

例えばこの、道端に咲いてる小さな花。これがあいつだったら……きっと鉢に植え替えて家に持って帰る。じゃない。思いきり踏み潰すだろう。
「は~……」
落ち着け俺。さっきから確実に調子が狂ってるぞ。

一度足を止めて深呼吸した。ローランドを思い出せ。あいつが情けなく地に伏す姿を思い浮かべるんだ。

嫌いな奴を貶めることで少し心が落ち着いた。再び歩き出し、賑々しい大通りに入る。
子ども達が可愛らしい玩具を持って横を駆けていく。そういう姿を見ると嫌でも力が抜けて、ため息が出た。
王族がいてもいなくても、実際のところ民は逞しく生きるのだろう。これは自身の心の問題だ。

誰に指示されなくとも自分は武器を造り続ける。それはきっと変わらない。
逆に、武器を造ることを止めたら? 間違いなく王族は混乱に陥るだろう。この国の礎を築いた大事な資本で、武器生産は文字通り、他国の侵略を防ぐ目印。武器が造れなければランスタッドは弱体化する。
にも関わらず水源もあり文化もある、他所から見れば喉から手が出るほど欲しい土地だ。王族を弱体化させるというのは悪くないが、他の国に乗っ取られるのは困る。やはり武器生産を止めることはできない。今の王政のまま、彼らの望み通りに供給しなくては。

道中喉が渇いたので、行きつけの店で水を買った。作物が育ちやすい気候ではあるが、日が高い間は蒸し暑く感じる時もある。額の汗を拭い、店主に金貨を渡した。
「ノーデンス様、今も武器を大量に造ってるんですよね」
店の女主人が、複雑そうな表情で身を乗り出した。
「皆難しいことは分からないから何も言わないけど、本当は不安でいっぱいなんですよ。武器を大量に輸出して、この国は潤ってる。でもいつかその代償がくるんじゃないかって……」

……そうだ。皆分かってる。

「ええ。でも大丈夫ですよ。皆さんのことは国軍が守りますから」

矛盾してるが、目には目を。今は王族の好きなようにさせればいい。たくさん武器を造って、売り捌いて、儲けさせる。最終的には自分が王族を抑えて国を統治する。
王族を大人しくさせたら、必要以上に武器を他国へ流すこともしない。

商店が並ぶ大通りを越え、見晴らしのいい荒野を進む。この国の東に巨大な工場地帯がある。裏には未だ開拓中の鉱山があり、志願者が昼夜問わず材料を運び出してくれる。
これがランスタッドの要だ。他所では採れない特別な鉱石が眠っている。宝石のような価値はないが、人々の暮らしを脅かす武器となる。
「ふふふ……」
要塞のような施設を見る度に溜飲が下がる。今はただ現場を指揮するだけだが、いつかあの王城も解体して武器工場にするのだ。

「ふっふっふ……ははっ、あはははは!」
「おはようございます、ノーデンス様」

……!
入口付近で背後から声を掛けられ、思わず姿勢が良くなる。振り返ると同じ鍛冶師の青年がハンマーを持って佇んでいた。

今の笑い声を聞かれたかもしれない。無表情を保ったまま出方を窺っていると、中年の彼はにっこり微笑み、ポケットから小さな石を取り出した。
「これ、初めて見る鉱物です。お忙しいと思いますが、是非一度見ていただきたくて」
「ほう。いいねいいね、うん、これはいいものだ。ありがとう」
我ながら軽ッと思いつつ、石をよく見るふりをしてポケットに突っ込んだ。まだ動揺している。
「これは後程、じっくり調べさせてもらいます」
「お願いします。もしかしたら武器の増強に使えるかもしれません」
笑顔で頷き、工場の中へ入った。ひとり爆笑していたことはツッコまれなかったのでセーフだろう。

仮にも一族の長として、冷静沈着な人物を装っている。イメージが崩れると計画に支障が出るわけではないが、念の為に完璧な人間を演じた方がいいだろう。咳払いし、軽く襟元を正した。

巨大なドームの中へ足を踏み入れた途端、凄まじい金属音と熱風がノーデンスを迎えた。二階はあるが、作業場は地下にある。吹き抜けとなっており、柵の下には武器が大量に造られる光景が広がっていた。息を飲むほど壮観だ。
申し訳程度の手摺を掴みながら不安定な階段を下りる。ノーデンスに気付いた職人達は顔を明るくし、作業の手を止めて一斉に駆け寄ってきた。

「ノーデンス様!」
「お久しぶりです。こちらに来るなら一言言ってくださればいいのに」
「いや、ちょっと様子見に来ただけなんだ。それより皆、いつもありがとう。体調管理も大事な仕事だから、適度に休憩と水分補給をして」
「はい!」

明るく働き者な鍛冶師達の話を聞き、トラブルや報告はないかリーダーから聴き出す。ある意味これが一番大事な仕事だ。この工場がストップしたら武器の生産が危うくなる。鍛冶師もあくまでただの人間で、材料と機械が駄目になったら何もできないのだ。
「本当に感謝してますよ」
採集した鋼材を保管する倉庫へリーダーと向かい、ひとつひとつの山に手を当てた。ここから自分が持つ気を注ぎ込み、頑丈で特別な素材にする。

「ノーデンス様のおかげで我々の生活は随分変わりましたよ。昔はただ武器を造る道具のように扱われて、街中に住むことも許されなかった。それが今は皆安定した収入を得て、好きな場所に好きな人と暮らすことができる」
「えぇ……」

安定した収入どころか、全員素封家にしてやるぐらいの気持ちだ。
心の中で密かに誓い、掌についた土をはたき落とした。

金貨をたくさん貰っても、人権を与えられても、「利用」されてることに変わりはない。自分達にしかない力を目につけ、王族は美味しいところを搾取している。
他の国でもこういった例は珍しくないだろう。だが争いが起きたという話を聞かない限り、どこも現状を受け入れてるのだ。力ある者が弱い者に従い、馬車馬の如く使われている。

そんな事があってはならない。少なくとも、俺は許せない。だから壊す。彼らを守る為に……父の願いを叶える為に。




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