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隣
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しおりを挟む苦しい。
痛みのせい、だけじゃない。鼓動は速まるばかりで息が荒くなる。
またさっきと同じ嗚咽が始まる。絶対にこの人のせいだ。
目頭がやたら熱くなって、視界が霞む。何か頭まで痛くなってきたし、もう最悪だ。
熱い……。
朝間さんの頬に赤い血が伝う。
その一滴は俺の頬に落ちた。
「祐代。……ごめん」
「何で謝るんですか?」
「そりゃあ、泣かせちゃったからね」
朝間さんの血と、自分の涙が混ざり合った気がした。
俺の頬には既に大粒の涙が流れて、鏡を見なくてもわかるぐらいぐしゃぐしゃになっている。
俺よりも崔本の心配をすればいいのに。何故か朝間さんは俺のことしか見なかった。
痛がってる俺を見るのが「痛い」んだと言って、ひたすら謝り続けた。別に謝ることもないのに……でも俺も謝罪の言葉しか出てこなかったから、オウム返しにしかならない。
「朝間さん」
顔がぬれていて気持ちわるい。鬱陶しいものを袖でぬぐい、深呼吸した。暗く淀んだ夜空の下は、とてもロマンチックには見えなかった。
やっぱり彼らが出ていたドラマみたいな演出は、待っているだけじゃ生まれない。
「俺……朝間さんのことが好きだ」
「うん。……知ってる」
彼は少し首を傾けた。互いの額が軽く当たる。
たったそれだけのことで、また涙が溢れた。
「さ。……そろそろ行きましょう」
俺達のやり取りを見守っていた梼原先生が控えめに呟く。何か恥ずかしくて、もう死んだふりをすることにした。
崔本も怠そうに瞼を伏せていた。助けがきたことに安堵して、脱力したみたいだ。
その後は朝間さんの車で病院へ連れてかれて、慌ただしく診察を受けた。親も来て、事情を聞かれて、大事な人に寄り添ってもらって。────瞬きと同じ速さで夜が明けた。
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