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隣
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しおりを挟む「延岡」
嫌悪感に襲われる。
腐った告白を吐き出した後、崔本は口を開いた。
「俺達、やっぱ似てるよ。嬉しくないけど」
ほんの少し手に力を込める。そのとき、わずかに爪の中に土が入り込んだ。変な感触だ。
「俺も継美さんからアウトオブ眼中だった時に病んでたんだ。何でこんな美貌の俺に振り向かないのか……全然分かんなくて」
「へぇ」
突っ込む気力もないから返事だけした。今はそんな体力も惜しい。
「たくさん暴走したよ。俺のことを想ってくれてるって、どこかで期待してたんだろうな……でもそれじゃ何も変わらなくて、泥沼に落ちるだけだった。寂しいだけなんだって、朝間さんにも言われた」
それは間違ってない。実際寂しいんだ。
たくさんの人に囲まれるほど孤独が強まる。
何よりも安心できる、心の拠り所を求めている。柚も自分に似た人間を捜し、足りない物を補充しようとしていた。
人は得てしてそういうものなのかもしれない。似た者同士が惹かれあって、その中でも自分が持ってないものを手にしている人間がいれば嫉妬する。
「好きな人に見てほしかった。俺もお前と同じだ。でもそれが分かんなくて、遠回りした」
もうちょっと素直で器量良しだったら、恋愛はともかく生きやすかったんじゃないか。
それが隣で倒れてる彼……延岡に少しでも伝わればいい。一架は密かに願いながら呼吸を整えた。
これが共感性羞恥か……。
ここにいると嫌でも過去の失態を思い出して転げ回りたくなる。
でも悲惨な出来事を乗り越えて今の幸せを手に入れられたのも事実だ。だから、全てを捨ててはいけないんだろう。
早く夜が明けるといい。ここは暗すぎて、考えまで暗くなってしまうから。
「ごめん、崔本。俺ひとりが落ちればよかった」
延岡は右手を空に掲げる。
薬指に、はめていたはずのリングがなかった。どうやらそれもどこかへやってしまったらしい。
「本当に……」
どうせ落ちたのなら、いっそ楽になりたかった。馬鹿な上に他人の命まで脅かすぐらいなら、いっそ全部終わりにして。
「死ねばよかった」
彼のことまで巻き込んで、どうしたらいいのか。
暗くて怖くて、とても朝まで待てない。痛みを堪えてひと眠りすればいいだけなのに、とてつもない恐怖に押し潰されそうだった。
あの人が命より大切に想ってる崔本もこんな目に合わせて。俺、例え生き延びても絶対に殺される。
もう、駄目だ。
「おい。……何か聞こえない?」
そう思って手を下げた途端、崔本は尖った声で訊ねてきた。耳を澄ますと確かに、なにか鳴っている。聞き覚えのあるメロディ。
俺のスマホの着信音だった。
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