Dress Circle

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
134 / 157

しおりを挟む



「延岡」

嫌悪感に襲われる。
腐った告白を吐き出した後、崔本は口を開いた。

「俺達、やっぱ似てるよ。嬉しくないけど」

ほんの少し手に力を込める。そのとき、わずかに爪の中に土が入り込んだ。変な感触だ。
「俺も継美さんからアウトオブ眼中だった時に病んでたんだ。何でこんな美貌の俺に振り向かないのか……全然分かんなくて」
「へぇ」
突っ込む気力もないから返事だけした。今はそんな体力も惜しい。
「たくさん暴走したよ。俺のことを想ってくれてるって、どこかで期待してたんだろうな……でもそれじゃ何も変わらなくて、泥沼に落ちるだけだった。寂しいだけなんだって、朝間さんにも言われた」
それは間違ってない。実際寂しいんだ。
たくさんの人に囲まれるほど孤独が強まる。

何よりも安心できる、心の拠り所を求めている。柚も自分に似た人間を捜し、足りない物を補充しようとしていた。
人は得てしてそういうものなのかもしれない。似た者同士が惹かれあって、その中でも自分が持ってないものを手にしている人間がいれば嫉妬する。
「好きな人に見てほしかった。俺もお前と同じだ。でもそれが分かんなくて、遠回りした」
もうちょっと素直で器量良しだったら、恋愛はともかく生きやすかったんじゃないか。
それが隣で倒れてる彼……延岡に少しでも伝わればいい。一架は密かに願いながら呼吸を整えた。
これが共感性羞恥か……。
ここにいると嫌でも過去の失態を思い出して転げ回りたくなる。
でも悲惨な出来事を乗り越えて今の幸せを手に入れられたのも事実だ。だから、全てを捨ててはいけないんだろう。

早く夜が明けるといい。ここは暗すぎて、考えまで暗くなってしまうから。

「ごめん、崔本。俺ひとりが落ちればよかった」

延岡は右手を空に掲げる。
薬指に、はめていたはずのリングがなかった。どうやらそれもどこかへやってしまったらしい。
「本当に……」
どうせ落ちたのなら、いっそ楽になりたかった。馬鹿な上に他人の命まで脅かすぐらいなら、いっそ全部終わりにして。
「死ねばよかった」
彼のことまで巻き込んで、どうしたらいいのか。
暗くて怖くて、とても朝まで待てない。痛みを堪えてひと眠りすればいいだけなのに、とてつもない恐怖に押し潰されそうだった。
あの人が命より大切に想ってる崔本もこんな目に合わせて。俺、例え生き延びても絶対に殺される。
もう、駄目だ。

「おい。……何か聞こえない?」

そう思って手を下げた途端、崔本は尖った声で訊ねてきた。耳を澄ますと確かに、なにか鳴っている。聞き覚えのあるメロディ。

俺のスマホの着信音だった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...