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隣
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しおりを挟む互いに気を失っていたようだ。
一架は深呼吸して、近くに落ちている枯葉を持ち上げた。
延岡より先に目覚めたものの、脇腹が痛くて起き上がることができなかった。
崖から転落した。
それでも下がアスファルトなどではなく、柔らかい土の上だったことは不幸中の幸いだろう。
「延岡、どこが痛い? 俺は脇腹なんだけど」
「右脚。動かすと……やばい」
ため息がもれそうになる。最悪だ。
どちらも起き上がれる状態じゃない。実は既に一つ絶望的な出来事があった。
「助けを呼ぼうと思ったんだけど、俺のスマホ強く叩きつけられたみたいで反応しないんだよ。お前のは?」
痛む首を捻って問い掛ける。彼は少しポケットの中をさぐってから、とても小さな声で答えた。
「スマホがない。……落ちた時に、どっかに吹っ飛んだのかも」
それから手を放って、彼は深く息をついた。
「わざとじゃないんだ。本当に、足が滑っただけなんだ。わるい……」
「そっか、良かった。わざとだったらマジでぶっ飛ばそうと思った」
冗談まじりに笑って返す。けどそれが身体に響いた。正直、声を出すだけで打った部分に痛みが走る。
「大丈夫だよ。今夜はこのままでも、明るくなれば子どもや家族連れがやってくる。そしたら大声で助け呼ぶ作戦でいこう」
息づきもせずに提案した後、密かに唇を噛んだ。
「それじゃあ俺はこのまま寝るよ。ちょっと、喋んのもキツいんだ……何かあったら起こして。虫いそうで嫌だけど、ワガママ言ってらんないからな」
脇腹に手を当て、瞼を閉じる。
開けても閉じても、見える景色はそう変わらなかった。どちらも暗い。自分達は今、誰にも気付いてもらえない闇の中にいる。
昼間は賑やかだろうに……。
こんな事なら継美さんに送ったメッセージに、延岡とどこで会うのか書けばよかった。すぐに帰って電話するつもりだったから、超短文で済ませてしまった。
でも、父には帰ると伝えた。朝まで帰らなかったら心配するだろう。
……やっぱ、帰らなきゃいけないんだ。帰りを待ってくれてる人がいる以上、絶対に帰る。
隣にいる彼だって同じ。帰りを待ってる人がいるはず。
「崔本……喋らなくていいから、ちょっといい?」
穴蔵の中にいるような、暗い闇と距離感の掴めない声。
遠いどこかで、延岡の声が聞こえていた。
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