Dress Circle

七賀ごふん

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────星空が見えた。

それは本当に一瞬。次の瞬間には真っ黒な絵の具をぶちまけたような闇。塗りつぶしたい過去の映像が頭の中を掠め、破裂音と共に飛散した。

『君、家に帰らないの? もう時間も遅いよ』

深夜の公園で独り。ベンチに座って時間を潰していた。
補導されそうな時間だが、家には帰れない。前回よりテストの結果が落ちて親に追い出されてしまった。
テスト用紙を握り締めたまま、暗い街を歩いていた。お金もないし、すぐに連絡のとれる友達もいない。行く場所がなくて最終的に辿り着いたのがこの公園だった。
放心状態。
ぐしゃぐしゃになったテストは隣のスペースに置いていた。

俺に話しかけてきた男の人は目の前に屈むと、そのテストを開いて微笑んだ。

『あれ、テスト。科学八十八点か。頭良いんだねぇ』
『か、返してください!』
ようやく頭がはっきりしてきて、慌てて彼からテストを奪い取った。
『ごめんごめん、テストとは思わなくて。名前も見ちゃったけど、祐代《ゆうだい》君……良い名前だね』
その青年は申し訳なさそうに笑った後、周りを見回してから名乗った。

『俺は朝間祐人あさまゆうと。名前、君と同じ漢字なんだ。何か勝手に親近感覚えちゃったよ』

名前。そうだ、見ず知らずの人に名前がバレてしまった。
でも……別にいいか。どうなってもいい。
もう日付けも変わりそうなのに、親はどこにいるか訊いてもこない。俺みたいな出来損ないは帰って来なくていいと本気で思ってるのかもしれない。

寒……。

夜の気温以上に、心が凍りついて息が止まってしまいそう。
ここで夜を明かして、気付いたら眠って、そのまま凍死したら。あの人達、ちょっとは泣いてくれんのかな。
それともやっぱり、迷惑かけるだけかけて……って、死んでからも文句を言われるんだろうか。
白い息を吐いて、ぼろぼろの指先を見つめる。
青年はそれも黙って見ていたが、痺れを切らしたように俺の手を掴んだ。
『さ、帰ろう。ここは子どもが来るところじゃない』
『え』
彼の言葉が不思議でしょうがなかった。だって、公園は子どもが来る場所だろ。
そう思って言い返すと、彼は「夜は違う」と言った。

『夜になるとね、この公園にはこわ~い男の人達がわんさかやってくるんだよ。君みたいに可愛い子、捕まったら食べられちゃう。だから家に帰りなさい』




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