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対比
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しおりを挟む内容というより、声音の方に虚しさが含まれていた。
しかし否定はできない。同じ世界で生きていた継美としては、一理あると思ってしまった。
汗水流して、苦楽を共にした仲間。そんな彼らすら蹴落として立ちたい舞台。
そこではたくさんの夢が生まれる。そして、生まれた分だけ消えていく。
脚光を浴びることなく夢を捨てる。誰にも知られないまま……。
「元々メディアに露出することが少ない舞台。今となってはそれが逆に良かったけど……たまに思い浮かべたりもします。あのまま続けていたら、俺の人生は違ったのかなって」
彼はポケットに片手を入れる。心底後悔してるようには見えないが、イフの未来が頭に張り付いて離れないんだろう。
きっと、壇上を降りたその日から。ずっと迷い続けているんだ。
「本当に少しですが、分かります。俺も十年前は全く違いましたよ。十年後も舞台に立って、客席を眺めてると思った。それが今は教壇に立って子ども達を眺めてる。未だに信じられない」
「…………」
少し冗談めかして話すと、彼の表情は若干和らいだ気がした。そして伏し目がちに、くぐもった声で語る。
「役者に限らず辛いことですよ。世間なんてろくに知らない子どもが全国の人間から評価されるのは……しかも酷評なら尚さらね。だからかもしれないけど、一架が事務所を辞めると言ったときはちょっと安心しました」
横を通る人は自分達を不思議そうに一瞥する。
はたから見たら何もない路上で立ち尽くしてる男二人組だ。場所を変えようとも思ったが、朝間の横顔を見るとそんな気も失せる。
彼は一架に自分を重ねてるだけのようだ。
本当は誰にも靡いてないし、何も期待はしてないんだろう。
まさかこんな話をするとは思わなかった。
結局一架には何も伝えないまま会いに来たが、それで良かったと思う。彼は必要以上に心配して、絶対に止めただろうから。
でもやっぱり、会いにきて良かった。この青年はそこまで強い人間じゃない。
「朝間祐人さん。貴方、延岡君のことは何とも思ってないんですか?」
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