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対比
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しおりを挟む「予定より大幅に上回る来客数……今回の展示会も大成功でしたね」
広いホールに佇み、展示物の片付けに追われるスタッフ達に目を向ける。
次いで、今日の集客数をタブレットで確認しているに企画部の青年に振り返った。
「先月のプロジェクトもすごい動員数だったし……やっぱり朝間さんのサポートのおかげです」
「いいえ、私は何も」
丁寧に頭を下げ、周りのスタッフに挨拶してから会場を出た。
朝間はスマホで時間を確認して、襟元を緩めた。
今日は提携先の企画参加で、一日中来客の応対をしていた。普段から話し続けるのは慣れてるものの、さすがに喉が痛む。
時間的にも自宅に直帰することを決め、駐車場へ続く街道を歩いた。すると前方に佇み、こちらを直視してる青年が居たので足を止める。
体感では、二秒ほど時間が止まった。
「初めまして。朝間さん、ですよね。少しだけお話できませんか」
まだ若いが、まじまじ見てしまうほど丁寧なお辞儀だった。物腰も口調も柔らかで、接客の多い身からすると好印象。
しかし心を許すかどうは別の話だ。
「突然すみません。私、高校の教員をしている梼原継美と申します」
「存じてます。一架の担任の先生でしょう? 実は僕も、貴方とゆっくりお話してみたいと思ってたんです」
朝間は笑顔を浮かべた。継美の隣に並び、少し先のバーを指さす。
「お仕事帰りでしょう。良ければ飲みながらお話しません?」
「いえ、車なので。ただのお茶なら、そこの喫茶店でも」
「ふふ。すいません、それならここで大丈夫です。俺も車だし、喉が乾いていただけなので」
方向を変え、すぐ近くの自販機に向かう。缶コーヒーを二本買い、一本を継美に手渡した。
「……ありがとうございます」
「いいえ。わざわざ会いに来てくださったんですから」
よく場所が分かりましたね、と言うと彼は一瞬気まずそうにした。それ以上はあえて踏み込まず、朝間は顔を背けた。
あっという間にコーヒーを飲みきり、缶をゴミ箱に捨てる。もっとも継美はプルタブも開けずに、通り行く人々を眺めた。
「そんな気を遣わないでくださいね。俺と継美さん、同い年みたいだし。……それでお話というのは、やっぱり一架のことですよね」
「はい。どうしても直接会って訊きたかったんです。貴方は一架を……彼をどうしたいんですか?」
束の間の沈黙。その後零れる小さなため息。
朝間は困り顔で継美を見つめていた。
「どうしたいとか、どうなってほしいとかは一切ありませんよ。俺にそんなことを望む権利はない。今までどおり、一人のファンとして彼を支援する。それだけです」
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