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対比
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しおりを挟む正直抵抗はあった。でも思いきってその名を口にすると、あからさまに延岡の顔つきが変わった。
驚いてるわけじゃない。多分、怒りだ。今まで見たことないような敵意。
やっぱり、彼は相当俺を憎んでるらしい。
……でもそれはほとんど逆恨みだろ。
彼が俺を勝手に恋敵と見て、いろいろ嫌がらせしてるに過ぎない。本音を言えばさっさと終わりにしたかった。
「お前、朝間さんが好きなんだろ。なら告白してみたら? それで万事解決じゃないか。俺はもうあの人と関わるつもりはないから、OKだったら付き合って、フラれたら諦める。……俺はフラれた方が良いと思うけどね。だって、あの人は色々普通じゃない」
「普通じゃなくていい。普通の人じゃ駄目なんだよ。俺は付き合えない」
こちらの言葉を遮って、延岡は歩き出した。
膝元しかない、申し訳程度の柵に乗って片手を前に翳す。
「好きってどういう気持ちなのか、ずっと考えてた。それが分からなくて疲れたんだ。四六時中その人のことを考えてる……それが“好き”ってことだと思ってたんだけど、違うみたいだから」
延岡の低い声は風と共に流れ、後ろへ通り過ぎていく。
彼が今立っている柵の向こう側は確か……かなり急な斜面だ。岩肌が突出しているところもあったし、下が林とはいえ落ちたら間違いなく怪我をする。
想像したら嫌な汗が流れて、彼の方へ駆け寄った。
「おい、こっち来いよ。危ないだろ」
先程から風も強く吹いている。
彼の身を案じて前へ踏み出し、手を伸ばした。けど、彼は自分の薬指にはめた指輪を見てるばかりで手を取らない。そして呟いた。
「ねぇ、これあげようか。朝間さんから預かったリング。きっと君にあげるつもりだったんだよ」
「死んでもいらない。それより戻ってこいって」
「いいよ。崔本がここから飛び降りるって言うなら」
「はぁ!?」
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