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対比
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しおりを挟む美味しい。それにすごく温まる。
「どうだ?」
「うん、美味しいよ。響子さんには負けるけど」
「当たり前だろう、滅多に料理なんてしないんだから」
父は開き直ったように答える。
俺も駄目だ。本当は褒めたかったけど、感謝したかったけど、照れ臭くて憎まれ口を叩いてしまった。
────でも、ちょっと元気が出た。
家族で食卓を囲う、ありふれた日常風景。小遣いとか何もいらないから、ずっとこういう生活をしたかった。
俺はどこにでもいる高校生で、父もどこにでもいるサラリーマンで、家も立派じゃなくていい。
何でもないことをいつでも話せる、普通の家庭に憧れていた。
「お前ももうすぐ三年だろ。進路は決めたか?」
「ううん。……でも、そのうち見つかる気がする。だから勉強だけは頑張るよ」
豚汁を完食し、箸を置く。父は不思議そうにしていたけど、やがて納得したのか黙って頷いた。
「ん?」
ポケットに入れてたスマホが鳴った。一応食事は終わってるからテーブルの下でスマホを取り出す。
誰だ?
着信だったけど、出る前に切れた。それから間を開けずにメッセージを受信する。
画面に表示された名前と内容を見て、途端に目が覚めた。
「ごめん。俺ちょっと出掛けてくる」
「……今から? すぐ帰るんだぞ」
笑顔で返事して、再び上着を羽織る。財布は……いらないか。スマホだけ持って玄関へ向かった。
「父さん、明日まで家に居るんだよね。俺家の鍵持ってかないけどいいかな」
「居る居ないに関わらず持ってけ。……と言いたいところだけど、ちゃんと居るから早く行ってこい」
父は玄関まで見送りに来てくれた。
変な感じだ。いつもは俺が後ろで、彼の背中を見送っていた。
それが後ろから視線を感じる。何かこそばゆくて、急いで靴を履いてドアを開けた。
そんなに悪い気もしないんだけど、やっぱり慣れないからだな。
「すぐ帰るよ。行ってきます!」
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