Dress Circle

七賀ごふん

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先に奪ったのは

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「ふあぁ……ねむ」

翌朝、一架は睡魔と戦いながら登校した。

せっかく新しいゲームが配信された為思いきり遊んでいたのに、寝る直前に色々なことを考えてしまい、結果寝付けなかった。

もう悩み事なんて全てとっぱらって、早く平和な日々に戻りたい。アンニュイになりながら階段を上っていると、ちょうど柚とバッティングした。

「あ。今日は遅いんだね、一架先輩。でもちょうど良かった」
「普通の登校時間だろ。どうした?」
「昨日話してた噂のこと。やっぱり延岡先輩とは関わんない方がいいよ。あのひと先輩のファンだって自称してるけど、朝間って人の犬みたいだから」
「朝間さん……?」

軽く、後ろから殴られたようで目が覚めた。
朝から物騒な話を聞かされたこともあり、心拍数が上がる。……いや、“彼”の名前を耳にしたせいだろうか。
「延岡先輩もあの男の人も、先輩が思ってる以上に執着してるみたいだね。気をつけなよ」
柚はため息まじりに呟いて長い前髪を払った。
その際、かすかに手首が見える。そこは一目で分かるぐらい紫色の痣が痛々しく広がっていた。
「おい、これどうした?」
彼の腕を掴み、間近で確認した。見れば、もう片方の手もそれらしき痕が残っている。

「お前、まさか朝間さんに会ったのか!?」
「あ~……うん。何かちょっと怒らせちゃった、あはは」

笑って答える柚とは反対に、本気で怒鳴った。
「馬鹿かお前は! 相手は大人なんだぞ!」
自分も彼とそこまで体格差はないが、それでも背が低く、女子のように華奢な柚が適う相手ではない。キレさせたら尚さらだ。これだから怖いもの知らずは困る。
「危ないことしやがって……!」
「でも……延岡先輩を見張ってたから、あの人が関係してること分かったんだよ? 普通に考えたら、先輩にそこまで恨みを持つ人なんて俺には思いつかないし……」
声が次第に小さくなる。
見ると、柚は珍しく落ち込んだ顔をしていた。
彼なりに良かれと思って行動したんだろう。それが逆に怒鳴られたもんだからショックを受けてるみたいだ。
あぁもう……。
一架は自分の髪を乱暴に掻き分けた後、柚の下がった視線に合わせて前に屈んだ。

「確かにな。ありがと。……でも、もう二度と危ない真似はすんな」

彼にデコピンし、強制的に顔を上げさせた。するとようやく笑顔を浮かべ、今度は誇らしげに手をかざした。

「あは、先輩に心配されるほど落ちぶれてないよ! じゃあ後は独りで頑張ってね!」
「お前やっぱくたばれ」
「冗談冗談……あ、そういえばあの朝間さんて人、笑ってたけどホントははらわた煮えくり返ってる感じだったよ。俺に対してか、先輩の好きな人に対してか……どっちだろ?」




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