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先に奪ったのは
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しおりを挟むなにかで頭を軽く叩かれた。目の前にはファイルを持った継美さんが不思議そうにこちらを見ている。
「どうした。変な顔してるぞ」
「いつもだよ」
「ほー。そりゃ大問題だ」
手を引かれ、近くの柱の影に隠れる。薄暗さも相まってドキドキしたけど、彼は真剣な顔をしていた。
「お前がそういう顔してる時は決まって何かあった時なんだ。俺もいい加減学習したからな。……隠さないで話せ」
鋭い眼差しが胸を貫く。
演技は息するようにしていたはずなのに、困ったな。もうこれからは、彼に隠しごとはできない気がする。
小さなため息をついて、ゆっくり彼の瞳を見返した。
「三組の延岡、わかるでしょ? たった今告白されたんだ。でもそんなことより、俺が視姦趣味を持ってたことを知ってた……めちゃくちゃ焦ったよ」
それを聞いた継美さんは目を見開く。けど驚いていたのは数秒で、すぐに優しく頷いた。
「大変だったな。でも、隠さないで話してくれたことは嬉しいよ。……それで、お前は何て答えたんだ?」
「とりあえず否定したよ。けど多分まだ疑われてる。本当は俺に好きな人がいるんじゃないかって、しつこく訊いてきたから」
延岡は俺の周りを気にしてるようだった。なら、絶対に継美さんと関係を持ってることを知られてはいけない。
これまで全く関わりがなかったのに急に接近してきたりして。正直、彼の目的の方がよっぽど気になる。
「あぁ……確たる証拠がないならビビる必要はない。お前が視姦してた姿を見られてるわけじゃないもんな? ならとにかくシラを切って、諦めてくれるのを待とう」
「うん。分かった」
彼の言葉に頷き、軽く手に触れる。
やっぱり一緒にいるだけで安心する、尊い存在だ。
────同時刻。
一架と継美の話を聴き、笑いを堪えている少年がいた。
「なあんだ。やっぱ恋人いるじゃん。しかも梼原先生って」
愉快そうに二人の会話に耳を傾ける。
……延岡だ。
少し離れた渡り廊下で、片耳だけ付けていたイヤホンを外す。貰い物の小型盗聴器には不安があったが、無事に機能していて良かった。
幸い、二人はすぐ傍の柱に盗聴器が設置されてることに気付いてない。知りたい情報さて手に入れば、後で回収するだけだ。
これで“あの人”に褒めてもらえる。延岡は上機嫌でその場を離れた。
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