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先に奪ったのは
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しおりを挟む鼓動が速くなる。けど絶対に動揺を悟られてはいけない。できるかぎり無表情を装った。
「お仕事中? それとも休憩中ですか?」
「その中間かなー。今日の分はもう働いたんだよ。結果を出しとけば堂々と会社に戻れる。ところで一架は時間平気? 良かったら隣おいでよ。変なことはしないから」
会話の内容にデジャブを感じる。相変わらずマイペースな人だ。
彼は微笑を浮かべながら隣の座面をぽんぽんと叩いたが、首を横に振って、その場に佇んだ。前を通過して立ち去るのも微妙だったから、どうでもいい方向を眺めて鞄を背負い直した。
「最近ご無沙汰だったよね。たまってないの?
それか、他にちょうど良い人でも見つけたかな」
「ちょうど良いなんて……」
「あぁ、違うのか、ごめん。じゃあちょっと前まで一緒に寝てた……俺は、一架にとってどういう存在?」
彼は前傾し、膝の上に頬杖をついた。
試すような眼差しを受けるのは、たまらなく居心地が悪い。でもそれを素直に伝えるのも憚られる。
「朝間さんにはたくさんお世話になりました。こんな俺のことを気にかけてくれて、ありがとうございます」
お世辞半分、……本音が半分。
自分だって散々彼を利用したし、良くしてもらった。だから彼を責めるのはお門違いだ。謝罪と同じく、お礼は伝えないといけないと思った。
でもやっぱり、中途半端な言葉は彼には響かない。回答になってないことを見抜かれ、さっきより鋭い視線が突き刺さった。
俺が今言った台詞なんて聞こえなかったかのように、大袈裟にため息をつく。
「一架は自分の価値がまだ分かってないんだよね。大丈夫だよ。俺が必ず分からせてあげるから」
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