Dress Circle

七賀ごふん

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陽のあたる場所

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「……っ」

迫る手に目を奪われている間に、眼鏡をとられる。そして頬を優しく撫でられた。
いつもとなにか違う柊先輩の視線が胸に突き刺さり、鼓動が速まる。

「大丈夫、分かってるよ。俺も一架も“同じ”だから。……多分お互い気付いてるけど、お互い気付かないふりして、隠してるだけ」
「え……」

それって、まさか。
深く聞き出そうとしたけど、柊先輩はゆっくり覆いかぶさってきた。
視界が暗くなる。
感じたのは、唇の熱だけだった。
「ん……っ!」
こんなことになるなんて、ここへ来る前は一ミリも思わなかった。
昨日の俺はどう先輩に謝って、どう許してもらおうか考えてたのに。
「柚」
不安で押し潰されそうだったのに、気付いたら……今は、こんなに。

「俺も……お前が好きだ。後輩としてじゃなくて……男として」

聞き間違いかと思うぐらい。下手したら世界で一番聞きたかった言葉。
嬉しさのあまり上手く受け止められず、押しつぶされそうだった。
天井と、影をつくる先輩の顔を見上げながら、肌に触れる体温を感じる。触れただけで溶けそうになる心地よさ。身体を包んでくれる大きな掌に酔いながら、震える声を絞り出した。

「柊先輩も……同性愛者なんですか」
「まあね。も、ってことは、やっぱ柚も?」
「はあ。違う、って言おうと思ってたんですけど……そうです」

床に転がったまま、瞼を伏せる。両手は先輩の手と繋がって、脚の間には彼の膝が潜り込んでいた。これでは逃げようにも逃げられない。
「先輩。前も言ったけど、もう一度だけ聞いてください。俺、本当に頭おかしいんです」
息が上手く吸えなくて、苦しい。ここまで怖くて仕方ないのは初めてだ。
家も学校も辛さは大差ない。何を言われても、何をされても、心を殺すことができた。でも今は彼に嫌われることが怖くて、心臓がバクバク鳴っている。

一架先輩が言ってた、これが「好き」って感情なのかな。

「多分、先輩がドン引きするぐらい病んでます。セックスに抵抗ないし、むしろ依存になりかけてます。幸せそうな人を見るとムカついて、どん底に落としたくなる。普通の人と普通に話せない……上っ面だけ良い子ぶってる自分が、殺したいぐらい大っ嫌いで」

息継ぎもろくにしないで、思いつく限り陰険な自分の性格を説明した。何ひとつ間違いじゃない。何ならもっと酷いぐらいだ。
こんな嫌な奴と付き合える人がこの世にいるなら、それは奇跡に近い。

「……ね。先輩、さすがに引いたでしょ」




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