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陽のあたる場所
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しおりを挟む「あっ……あれは、ちょっとふざけてたんです。ほら、一架先輩は柊先輩と幼なじみだから、抱きついたりも平気でやるじゃないですか。だから嫉妬させようゲームみたいな」
自分で言いながら苦笑した。言い訳にしてもめちゃくちゃ過ぎて、頭の悪さが露呈している。
けど、しょうがないんだ。この人の前だと本当に頭が回らない。ボロを出さないように気をつけると逆効果で、有り得ないミスをする。
どうして……。
無意識に後ろに後ずさり、とにかく落ち着こうと瞼を強く閉じる。
「はは。俺、一架とは十年以上一緒にいるけど、抱きつかれたのなんか初めてだよ」
「そっ……そう、ですか」
苦し紛れの言い訳を華麗に否定され、反応に困ってしまう。
「先輩……?」
柊先輩の手がずっと重なっている。それはなかなか離れなくて、むしろ力が込められていた。
「あと、一番気になってること訊いていい? 柚、さっき俺のことは好きじゃないとか言ってたよね?」
────きた。
「いや! 違うんです、あれは……!!」
どっちにしろあの場じゃそう言うしかなかった。
否定しなきゃいけないと思った。だってそうしないと、本当にこの関係が終わってしまう。
柊先輩がストレートなら気持ち悪いと思われて、二度と口をきいてもらえないかもしれない。
そうだ。自分がゲイだと知られることも怖かった。
「柊先輩のこと、好きだろって訊かれて……あ、焦ったんです」
先輩の為を思っても否定するべきだ。これからも当たり障りのない関係でいたいのなら、絶対隠し通さなきゃいけない。
先輩と後輩として、“普通”ぶらないといけない。
けどそんなことすら辛くて苦しい。
一架先輩には勝てないにしても、演技は得意な方だと自負していたのに……今はただの後輩を演じることが苦しかった。
自分の気持ちに気づいてしまった。
柊先輩のことでからかわれて、あんなにも感情的に怒鳴り返してしまったのは。
「……図星、かもしれない。……から」
柊先輩と一緒にいたい。こんなことで距離を置きたくない。それだけ。
……。
って、言いたかった。
おかしい。今確実に何かやらかした気がする。もしかしたらもしかすると、……告白してしまった。
「……す、すいませんでした! 帰ります!」
もう、全部なかったことにしてほしい。
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「あはは、ごめん。そんなこと言われたら帰せないや」
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