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暗がりの人
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しおりを挟むいつもの帰り道だ。なのに広がる景色に靄がかかり、歪んで見えた。
でも冷静に考えると、これが以前の……いつもの、俺の世界だった気もする。
そういえばいつから変わった?
────そんなことすら気付かなかったなんて。
戸惑いを覚えたとき、隣を歩く彼の肩が軽くぶつかる。
「柚、今度の土曜日どっか遊びに行かない?」
「あ……はい、行きましょう!」
反射的に笑顔で答えると、柊怪訝な表情になった。
「どした。何か暗いな」
「え? い、いつも通りですけど?」
声だって高かったはずだ。思わぬところにツッコまれ、わずかに横へ反れる。
「そうかー? 何か悩みでもあんじゃないか? 話してみろよ」
「やだな、ありませんよ。俺は毎日楽しくてしょうがないですから!」
びっくりした。
いつもヘラヘラ笑ってるだけのくせに、変なとこで鋭い。何とか上手く誤魔化そうと、得意の笑顔を作った。
「柊先輩と仲良くなれてから、もう毎日楽しくてしょうがないです」
勝手に口をついた台詞だった。
深い意味はなくて、話をそらす為のもの。それなのに。
「本当? 俺も柚が笑ってるだけで何か嬉しいよ。……お前に会えて良かった」
彼は、俺と目が合うと腕を伸ばして笑った。
「そ、そんな大げさな」
「ほんとだよ? もう最近は放課後だけが楽しみ」
「あはは……ありがとうございます!」
彼のテンションに合わせて元気に返す。
男相手に何恥ずかしいこと言ってんだ、って思いつつ。
俺も楽しみにしてる、なんて言えるわけもなく。
鼓動が速くなるのが怖かった。
何だこれ。
頭がグチャグチャになって、胸が熱くって、でもやっぱりイライラしておかしくなりそうだった。
もう、一架先輩の事だけで頭がいっぱいなのにやめてほしい。
とりあえずその日は、柊先輩の話に頷くだけで精一杯だった。
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