Dress Circle

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
76 / 157
暗がりの人

しおりを挟む



一架先輩は変わった。

視姦をやめたこともそうだし、もう俺がどれだけ誘ってもエッチは絶対に嫌がる。かといって他の男とシてるようにも見えないし、一体どうしたんだろう。

……なんて、理由は明白。好きな人ができたに決まっている。

ちょっと前に先輩が担任の先生と揉めてるところを見かけたから、彼と何かあったんだと踏んでいたけど、見張ってる限りじゃ全然分からない。
先輩を“普通”にしちゃったのはどこの男か。
そう考えていたとき、ふと隣を歩く柊先輩が目に入った。
もしかして、この二人付き合ってる?
────そんな疑念が頭をよぎった。

「ははっ。……それはやっぱ、お互いに、もう隠すところがないだけだろうな。馬鹿なこともいっぱい見せてきたし、見栄張る必要もないってゆーか」

ふうん。
……やっぱり、気のせいか。

「幼馴染って、兄弟みたいな感覚なんですかね」
「うん、それに近いかも」

柚は笑顔を作りながら、柊の端正な横顔を一瞥する。
彼は“普通”だ。一架と釣り合うには物足りないとひとりで考察した。

「ねぇ、一架はああ言ってたけど、もし時間あったら何か食いに行かない? 俺腹減っちゃってさ」
「えっ? ……あ、はい。大丈夫ですよ」
「マジ? ありがと! 家帰って一人で食うのも微妙だったからさ」

柊の誘いを受け、柚は駅近くの席が空いてるカフェに入った。柚はポテトだけにしたが、柊はサンドイッチとグラタンを頼んだ。冗談抜きで腹が空いてたようだ。
「あの、柊先輩の親は帰ってくるの遅いんですか?」
「うん、共働きだから。ごめんね、付き合ってもらっちゃって」
「いや、俺も」
ジュースを飲みながら、窓の外を眺める。
黒一色に街の明かりが煌々と浮かんでいた。
「家帰ってもつまらないんで、ありがたいです」
小さく零すと、柊先輩は優しく笑った。

「じゃあまた一緒に帰ろうよ。俺で良かったらいつでも遊び相手になるからさ」
「……ありがとうございます」

悪い印象なんか欠片もない。良い人だ。
自分とは全然違う、普通の人。

これが普通……。
じゃあ、普通の遊びをするには最適な相手だ。
一架先輩以外と深い仲をつくる気はなかったけど、暇つぶしで付き合うぶんには良いかもしれない。

柊先輩はいつも笑ってる人だった。どうやら俺は、笑ってる人が嫌いじゃないみたいだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...