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暗がりの人
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しおりを挟む一架先輩は変わった。
視姦をやめたこともそうだし、もう俺がどれだけ誘ってもエッチは絶対に嫌がる。かといって他の男とシてるようにも見えないし、一体どうしたんだろう。
……なんて、理由は明白。好きな人ができたに決まっている。
ちょっと前に先輩が担任の先生と揉めてるところを見かけたから、彼と何かあったんだと踏んでいたけど、見張ってる限りじゃ全然分からない。
先輩を“普通”にしちゃったのはどこの男か。
そう考えていたとき、ふと隣を歩く柊先輩が目に入った。
もしかして、この二人付き合ってる?
────そんな疑念が頭をよぎった。
「ははっ。……それはやっぱ、お互いに、もう隠すところがないだけだろうな。馬鹿なこともいっぱい見せてきたし、見栄張る必要もないってゆーか」
ふうん。
……やっぱり、気のせいか。
「幼馴染って、兄弟みたいな感覚なんですかね」
「うん、それに近いかも」
柚は笑顔を作りながら、柊の端正な横顔を一瞥する。
彼は“普通”だ。一架と釣り合うには物足りないとひとりで考察した。
「ねぇ、一架はああ言ってたけど、もし時間あったら何か食いに行かない? 俺腹減っちゃってさ」
「えっ? ……あ、はい。大丈夫ですよ」
「マジ? ありがと! 家帰って一人で食うのも微妙だったからさ」
柊の誘いを受け、柚は駅近くの席が空いてるカフェに入った。柚はポテトだけにしたが、柊はサンドイッチとグラタンを頼んだ。冗談抜きで腹が空いてたようだ。
「あの、柊先輩の親は帰ってくるの遅いんですか?」
「うん、共働きだから。ごめんね、付き合ってもらっちゃって」
「いや、俺も」
ジュースを飲みながら、窓の外を眺める。
黒一色に街の明かりが煌々と浮かんでいた。
「家帰ってもつまらないんで、ありがたいです」
小さく零すと、柊先輩は優しく笑った。
「じゃあまた一緒に帰ろうよ。俺で良かったらいつでも遊び相手になるからさ」
「……ありがとうございます」
悪い印象なんか欠片もない。良い人だ。
自分とは全然違う、普通の人。
これが普通……。
じゃあ、普通の遊びをするには最適な相手だ。
一架先輩以外と深い仲をつくる気はなかったけど、暇つぶしで付き合うぶんには良いかもしれない。
柊先輩はいつも笑ってる人だった。どうやら俺は、笑ってる人が嫌いじゃないみたいだ。
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