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暗がりの人
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しおりを挟む「ねぇ先輩、本当にもう視姦しないの?」
「声がでかい! もうしないって言ってるだろ。何回訊くんだよ」
先輩は怒り半分、呆れ半分で手を振った。けっこう前から毎日しつこく質問してるんだけど、……どうやら本気みたいだ。
「先輩。俺は視姦をやめた先輩に存在価値はないと思う。なんでまた一緒にホテル行こう!」
「行かないしお前は俺を何だと思ってんだ!!」
朝から先輩を怒らせたところで、無事に学校へ着いた。
「じゃあね先輩。また放課後会おうね~」
「はぁ……俺が言うのもなんだけど、お前普通に生きろよ」
先輩は疲れた顔で二年生の棟へ行ってしまった。その後ろ姿を見るだけで癒される。
可愛いなぁ。先輩は本当にいじりかいがある。
このままずっと狂った方へ向かっていけば楽しいことになったかもしれないのに、残念だな。
いやはや、つまらない。
俺達みたいな人種にとって“普通”っていうのは、退屈どころか息苦しい水の中と一緒なのに。
「お、柚おはよー」
「おはよう」
自分の教室へ入って、クラスメイトと笑顔で挨拶を交わす。
こんな当たり前の生活が、俺にはつらい。
しんどい。
「良い子」を演じてることが。
一架先輩は、それを少しだけ理解してる人間だったのに……本当にマトモな人間になったら、もう一緒にいるのは限界かもしれない。
潮時かな。
鬱になるほど長い一日を終えて、放課後を迎えた。
「あ、一架先輩!」
「ん?」
ちょうど靴に履き替えて帰ろうとしてる先輩を見つけた。タイミングが良いから今話してしまおうかと思ったんだけど、
「お! 柚君じゃーん」
聞き覚えのある声がして、目をやる。
そこには笑顔を浮かべる、一架先輩の幼なじみの人がいた。名前は……確か柊先輩だ。
「すいません。お二人で帰るところだったんですか?」
「いや、一架は用事あるって言うからここで別れるんだ。柚君、良かったら俺と一緒に帰らない?」
「あ。はい、もちろん」
柊先輩の言葉に元気よく返すと、一架先輩は不安そうに呟いた。
「それはいいけど、お前ら寄り道しないで帰れよ」
「はーい!」
「ハイハイ、お前こそ気をつけろよ。じゃあな」
一架先輩と別れて、柊先輩と二人で学校を出た。
成り行きとはいえ、そこまで親しくない先輩と二人で帰るのは初めてかもしれない。
「柊先輩は一架先輩と仲良いですね」
「うーん、仲良いっていうか……一緒の期間長いからなあ。でも、そう見える?」
「はい。一架先輩、柊先輩にはすごい素を出してる気がしますよ!」
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