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暗がりの人
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しおりを挟む高城柚。
テストの回答用紙に一番にそう書いて、思わず眉を顰める。
この女みたいな名前が昔から嫌いだ。もっとも名前だけならともかく、この名前は自分の顔や声まで懇切丁寧に説明してしまっている。
今年高校一年生になった柚はお世辞にも男らしいとは言えない、抽象的な容姿の少年だ。老若男女問わず、初めて会う人間からは可愛いね、と言われてきた。男子校に入ってからは尚さら、下手したら姫扱いされている。
可愛い……。
男にとってソレは褒め言葉じゃない。それでも話すキッカケとして、みんなそう言いながら自分に近付いてきた。
単純。
その意図がわかるから、俺も期待を裏切らないように努めた。眼鏡をかけて、髪も派手にはせず、極力目立たないように心掛けた。自分は無害だと案内する為に。
実際はそんなことない。自慢して言えることじゃないけど、断言できる。
俺は間違いなく有害な人間だ。
「あっ。一架先輩、おはよーございます!」
暇で暇で死にそうな高校生活は、最近ちょっと楽しい。
ちょっとだけ、他とは変わった人を見つけたから。
「げっ、柚……」
朝の通学路で俺を見た瞬間、その人はウンザリした顔で振り返ってくれた。彼が俺のマイブーム、一架先輩だ。
「お前っていつも笑顔でいいな。悩み事なんか一つもなさそう」
「あはは。先輩、それは違うよ。俺は常に心に闇を抱えてるから」
「そーだな。お前の内側は真っ黒だよ」
先輩は見た目イケメンで成績優秀、非の打ちどころがない。あ、でもちょっとナルシストな部分があるからそれはマイナスか。
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……いや、異常者“だった”。
一ヶ月前、俺を乱交パーティに誘ってからは完全にその趣味をやめてしまった。
それは正直かなりショックだ。せっかく俺と同じぐらい頭おかしい人に会えたと思ったのに。……どんどん普通の人に成り下がる先輩が残念過ぎてならない。
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