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灯火
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しおりを挟む終わった。
とうとう、痛くて重い恋人みたいな発言をしてしまった。まだ告白すらしてないってのに。
やらかした気持ちが波のように押し寄せるけど、今さら戻れない。きっと極限まで引かれて、彼とは二度と普通に話せないと思う。
俺のよく分からない片想いも、必死に守った高校生活も全て終わりだ。これからは柚に遊ばれて、朝間さんに抱かれるだけの日々が始まる。
絶望して目の前が真っ暗になっていると、まぁまぁ痛いデコピンをされた。
「い、痛い……」
「馬鹿だなぁ、お前は。最初っからそう素直に言えばいいのに」
継美さんは笑っている。てっきりドン引きされると思ったのに、真正面から俺の頬に手を添えてきた。
「お前はこうやって触られることが嫌いだし、人と深く関わることも嫌いみたいだし。適度に距離をとるのは仕方ないだろ? そもそも俺は、お前に嫌われてると思ってたんだから」
「……」
確かに、最初の頃は本気で憎んでた。何回後ろから蹴り飛ばしてやろうと思ったか覚えてないぐらいだけど。
「けど、それでも大きくなったお前が可愛くて、昔みたいに構おうとしちまった。謎に威勢よくて、生意気なところも好きだよ。俺としてはさっきみたいに本音を喚き散らしてくれた方が嬉しい」
いつかの伊達メガネを、胸ポケットに差し込まれる。
彼は確かに、昔と変わらない優しい声で囁いた。
「ただの生徒なわけないだろう? もちろん、後輩でもない。お前は特別だよ」
「特別……」
「まー、元はと言えば変な性癖目覚めさせたのは俺だし? 責任とんなきゃなのかなって思ってさ」
彼は存外真剣な顔で天井を見上げた。
責任と言われると重い。彼の足枷になりたいわけじゃないから、小さなため息をついた。
「つっ……付き合いたいとかじゃない」
「本当に? 俺のことが好きなんだろ?」
彼は冗談交じりに笑った。わざと自信満々に言ってるところが憎らしい。
こうやっておどけて、感情を引き出そうとしてるのは分かる。要は煽ってるんだけど、それは昔彼から教わった手法だ。
「一架。本当は、どうしたい」
彼は自身の膝に手を当て、前に屈んだ。いつものように強引ではなく、むしろどんな答えも優しく受け止めようとしている。
どうしたい……か。
「俺……今は、継美さんが好き」
「そうか」
「でも嫌い」
「どっちだよ」
涙でぬれた目元がようやく乾いた。ホッとしてると、継美さんは何故か今さらハンカチをくれた。顔を隠せるし、せっかくだから受け取って顔を覆う。
柔らかくて肌触りの良いハンカチだ。継美さんの匂いがする。って、ちょっと変態っぽいからやめとこう。
「……めちゃくちゃなことばっか言って、ごめんなさい」
謝ってもどうにもならない気がするけど、好き放題言って困らせたことは謝らなきゃいけない。
ゆっくり頭を下げる。……一架の頭を、継美はすぱんとはたいた。
「あの、いったいんですけど!!」
「お前の頑固頭が少しでも治るようにおまじないしてるんだよ。これで、多分もう大丈夫」
何も大丈夫じゃない。色んな罵り言葉が喉元まで出かかっていたけど、グッと堪えて彼の続きを待った。
「俺がこんなことするのはお前だけだよ。誰よりも心配で、大切なお前じゃなきゃ……だからネガティブなことばっか言ってないで、俺の告白を受ける準備をしてな」
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