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灯火
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しおりを挟む「俺のことなんか好きじゃないくせに……変なことばっかしてくんなよ! そういうところが嫌いなんだって、言われなきゃ分かんないわけ?」
棘だらけの言葉を吐き出すと喉が痛んだ。
腰の痛みも忘れ、胸の辺りを手で強く押さえる。広がる傷口から、中に溜まった黒いものが溢れ出した気がした。
「マジで……やたら構ってくるから勘違いするんじゃん……」
ずっと言いたかったことだ。すっきりしたけど、同時に顔から火が出そうなほど熱くなる。
朝から最悪過ぎるだろ……。
微妙にぬれてる目元を拭こうとしたけど、その前に腕を掴まれる。顔を上げると同時に、息を奪われた。
最初は唇を押し付けるだけの軽いものだったのに、熱い舌が入りこみ、容赦なく中を貪る。
「ん……っ!」
巧みな舌遣いに流されないよう、こっちもできるだけ意識を集中した。
今思うと殴り飛ばせばいいだけだったけど……少しして離してもらえた為、拳は行き先を失った。恐る恐る彼の顔を見あげると、痛みをこらえるような、複雑な面持ちをしていた。
「……随分と上手くなってんな?」
さぐるような目。でも誰としていたのか、というところまでは訊いてこない。もし訊かれても、俺は答えられなかったと思う。
何があってもこの人にだけは知られたくないから。
「確認させて、一架。お俺に好かれてると勘違いしてた、ってことで間違いない?」
「……!」
背中に当たる壁がひんやりとして冷たい。
このまま頭も冷めそうな気がするけど、彼の甘い口付けと優しい声で熱は上がる一方だった。
弱くて、絆されやすい自分が憎い。そして、悔しい。
「あぁそうだよ。だからムカついてるんだ。優しくされんのが嫌だし、名前も呼ばれるのも、あと担任なのも嫌だ。毎日教室で顔を合わせなきゃいけないこと、関わらなきゃいけないこと、全部が嫌」
「おま……俺のことどんだけ嫌いなんだよ」
彼は苦笑しているけど、笑い事じゃない。
「大嫌いだよ。継美さんが見てるのは生徒としての俺だろ。そうじゃないんだよ。俺が見てほしいのは、今ここで喚き散らしてる、嫉妬深くてめんどくさい奴のことなんだ……!」
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