Dress Circle

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
70 / 157
灯火

しおりを挟む



「俺のことなんか好きじゃないくせに……変なことばっかしてくんなよ! そういうところが嫌いなんだって、言われなきゃ分かんないわけ?」

棘だらけの言葉を吐き出すと喉が痛んだ。
腰の痛みも忘れ、胸の辺りを手で強く押さえる。広がる傷口から、中に溜まった黒いものが溢れ出した気がした。
「マジで……やたら構ってくるから勘違いするんじゃん……」
ずっと言いたかったことだ。すっきりしたけど、同時に顔から火が出そうなほど熱くなる。

朝から最悪過ぎるだろ……。

微妙にぬれてる目元を拭こうとしたけど、その前に腕を掴まれる。顔を上げると同時に、息を奪われた。

最初は唇を押し付けるだけの軽いものだったのに、熱い舌が入りこみ、容赦なく中を貪る。
「ん……っ!」
巧みな舌遣いに流されないよう、こっちもできるだけ意識を集中した。
今思うと殴り飛ばせばいいだけだったけど……少しして離してもらえた為、拳は行き先を失った。恐る恐る彼の顔を見あげると、痛みをこらえるような、複雑な面持ちをしていた。

「……随分と上手くなってんな?」

さぐるような目。でも誰としていたのか、というところまでは訊いてこない。もし訊かれても、俺は答えられなかったと思う。
何があってもこの人にだけは知られたくないから。

「確認させて、一架。お俺に好かれてると勘違いしてた、ってことで間違いない?」
「……!」

背中に当たる壁がひんやりとして冷たい。
このまま頭も冷めそうな気がするけど、彼の甘い口付けと優しい声で熱は上がる一方だった。
弱くて、絆されやすい自分が憎い。そして、悔しい。

「あぁそうだよ。だからムカついてるんだ。優しくされんのが嫌だし、名前も呼ばれるのも、あと担任なのも嫌だ。毎日教室で顔を合わせなきゃいけないこと、関わらなきゃいけないこと、全部が嫌」
「おま……俺のことどんだけ嫌いなんだよ」
彼は苦笑しているけど、笑い事じゃない。
「大嫌いだよ。継美さんが見てるのは生徒としての俺だろ。そうじゃないんだよ。俺が見てほしいのは、今ここで喚き散らしてる、嫉妬深くてめんどくさい奴のことなんだ……!」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...