Dress Circle

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
68 / 157
灯火

しおりを挟む



「ああああ……いったああぁ……っ」

翌朝、一架は腰に手を当てながら学校へ向かった。
必死に痛みを耐えているが、気を抜くとふらつき、体幹が傾く。それに気付いた通行人とだけ、登校中に目が合った。今となってはどう思われてもいいぐらいに開き直っているけど。

────昨夜、また朝間さんと寝てしまった。

しかも最後まで。後悔は凄まじいが、思考を放棄する時間が欲しかったのは事実だ。
“彼”のことを忘れさせてくれる存在なら何でも良かった。……なんて、とうとう落ちるところまで落ちたクソ人間の言い訳な気がする。

目的も生き甲斐もなくしてしまった。こんな風に自分を変えたのは、一体誰なのか。

「一架」

それは彼しかいない。
教室へ向かう途中の階段。その先で、見下ろすように立っている担任教師。
「継美さん……」
だから、何でいつも会いたくないタイミングで現れるんだ。
心の中のみ毒を吐く。一架は俯いて手すりを掴んだ。
のんびりと亀のようなペースでここまで来たが、一段一段上るたびに腰が痛むのだ。彼に近付きたくないという理由だけじゃなく、歩くペースは下がった。

「いつにも増して顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「いつも、と何にも変わりません」

本当は無視したいぐらいだけど、良心に負けて答える。すると彼はわざわざ階段を下り、目の前までやってきた。
「また熱でもあるんじゃないのか」
もう構わないでほしい。でも昨日あれだけ拒否ったのに普通に話しかけてくる神経は凄いと思った。
大人の余裕か、教師の責務か。
……真面目に考えていたけど、彼の腕が腰に回って悲鳴を上げてしまった。

「ひゃ……っ!」

本当に、そっと触れただけだ。それなのに電流が走ったかのような衝撃が全身を駆け巡る。
「ちょっと、いきなり触んなよ……!」
冷や汗をかきながら、涙目で訴えた。
継美さんは唖然としたが、すぐ鋭い目つきに変わり、腕を掴んできた。
「うわっ……」
今度は歩き出した為、慌てて足を前に出す。無言で引き摺られることも恐ろしくて、軽くパニックになった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...