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灯火
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しおりを挟む「ああああ……いったああぁ……っ」
翌朝、一架は腰に手を当てながら学校へ向かった。
必死に痛みを耐えているが、気を抜くとふらつき、体幹が傾く。それに気付いた通行人とだけ、登校中に目が合った。今となってはどう思われてもいいぐらいに開き直っているけど。
────昨夜、また朝間さんと寝てしまった。
しかも最後まで。後悔は凄まじいが、思考を放棄する時間が欲しかったのは事実だ。
“彼”のことを忘れさせてくれる存在なら何でも良かった。……なんて、とうとう落ちるところまで落ちたクソ人間の言い訳な気がする。
目的も生き甲斐もなくしてしまった。こんな風に自分を変えたのは、一体誰なのか。
「一架」
それは彼しかいない。
教室へ向かう途中の階段。その先で、見下ろすように立っている担任教師。
「継美さん……」
だから、何でいつも会いたくないタイミングで現れるんだ。
心の中のみ毒を吐く。一架は俯いて手すりを掴んだ。
のんびりと亀のようなペースでここまで来たが、一段一段上るたびに腰が痛むのだ。彼に近付きたくないという理由だけじゃなく、歩くペースは下がった。
「いつにも増して顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「いつも、と何にも変わりません」
本当は無視したいぐらいだけど、良心に負けて答える。すると彼はわざわざ階段を下り、目の前までやってきた。
「また熱でもあるんじゃないのか」
もう構わないでほしい。でも昨日あれだけ拒否ったのに普通に話しかけてくる神経は凄いと思った。
大人の余裕か、教師の責務か。
……真面目に考えていたけど、彼の腕が腰に回って悲鳴を上げてしまった。
「ひゃ……っ!」
本当に、そっと触れただけだ。それなのに電流が走ったかのような衝撃が全身を駆け巡る。
「ちょっと、いきなり触んなよ……!」
冷や汗をかきながら、涙目で訴えた。
継美さんは唖然としたが、すぐ鋭い目つきに変わり、腕を掴んできた。
「うわっ……」
今度は歩き出した為、慌てて足を前に出す。無言で引き摺られることも恐ろしくて、軽くパニックになった。
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