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虚勢と
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しおりを挟む最悪だ……。
気を抜いたらそのまま倒れてしまうんじゃないだろうか。そう思うほどの息苦しさに襲われながら学校を出た。
パニックから鞄を持ってくることも忘れたが、スマホと定期さえあれば帰宅するのに困らない。二つともポケットに入っていることを確認し、深く息をついた。
学校に戻るのは絶対嫌だったから、駅に向かって歩みを進める。
まだ目頭が熱い。通り過ぎる人達に顔を見られないよう、俯きながら歩く。
そうして思い浮かぶのは、戸惑う継美の顔。
冗談抜きで自分が嫌いになりそうだ。あの人の前で、一体何回泣いただろう。
怒りを通り越して呆れた頃、聞き覚えのある声が降り掛かった。
「あれ。一架?」
心臓がどくんと跳ねる。
いつかの苦痛と恐怖が息を吹き返した。
「朝間、さん……」
この辺りでは一番のメインストリート。昼夜問わず大勢が行き交うその場所で、タイミング悪く鉢合わせてしまった。
あれからそう日は経ってないけど、俺をホテルで無理やり抱いた人。……朝間さん。
彼は控えめだが上質なスーツを着ている。
「奇遇だね。元気?」
「え……あ、はい」
あれだけのことをしておいて、よく平然と声を掛けられるな。
正直どう反応したらいいかも分からなくて、歯切れが悪くなる。すると彼は困ったように笑った。
「あはは、俺に元気とか訊かれても微妙だよね。この前は大丈夫だった? ……しばらく痛かったでしょ」
彼の切れ長の瞳が段々と下へ移る。別に触られてるわけでもないし、裸を見られてるわけでもないのに……何故かゾクっとした。今度は恐怖ではなく、官能的な反応だ。
「だ、大丈夫です。それじゃ……」
これ以上彼と関わってはいけない。急いで立ち去ろうとしたが、前と同じく俺の頬に手を添えてきた。
今回はホテルとは違う。下手したら衆目を集める場所にいるのに、どうしてこんな事ができるのか。
怖がる必要はない。もし変なことをしてくるなら大声を出そうと思った。
けど彼は俺の目元に触れるだけで、やがて苦しそうに目を細めた。そっと屈み、微かに聞き取れる声で問い掛ける。
「目の周り、赤くなって腫れてるよ。なにかあった?」
割れ物を触るように、恐る恐る目の縁をなぞる。それがくすぐったくて、思わず変な声を出してしまう。朝間さんはそれを聞くと可笑しそうに笑った。
「学校帰り? 何も持ってないけど」
「……」
鞄を持ってないぐらい、大したことじゃい。だけど指摘されると、自分が悪いことをしてるように思えた。
妙な罪悪感に苛まれ、黙って頷く。
朝間さんは少し考え込んだ後、お茶でも飲みに行かないかと誘った。
「大丈夫だよ。一架が嫌がることは絶対にしない。怖かったらいつでも110番かける用意をしといていいから」
冗談なのか本気なのか分からないけど、彼はそう言って前を歩いた。
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