61 / 157
虚勢と
8
しおりを挟む教壇に戻らざるを得ない継美さんは舌打ちした。何てこんな態度悪い人間が教師になれるんだ。
心底不思議に思っていると、彼は俺にだけ聞こえる声で「放課後は残れよ」と呟いた。そして教卓の方へ向かい、いつものように出欠を取り始める。
複雑……いや、微妙な気持ちだった。
くっそー……だから何でアンタの言うことを聞かなきゃなんないんだよ!
放課後は速攻帰ってやる。
そう心に誓って一日を過ごした。なのに、教室を出る一歩手前で後ろから襟を掴まれる。
引き止めたのはやっぱり継美さんだ。
「こら。三分は付き合うって約束しただろ?」
「わ、分かった。じゃあどうぞ! 簡潔にお話ください」
首が締まって苦しいから、ちょっと強引に彼を突き飛ばした。襟をなおしながら、帰って行くクラスメイト達を横目に見る。
あ────俺も帰りたい。置いてかないでほしい。この性犯罪者と二人きりにしないでくれ。
悲愴感に浸かりながら考えてると、継美さんは深いため息をついた。
「俺に怒ってるみたいだな。それは一旦置いといて、最近元気ないだろ。……どうした?」
端正な顔が近付く。思わず見とれそうになるが、自分で自分の手をつねり、現実に戻った。
視姦はやめたけど、後輩と寝たけど、そんなのこの人には関係ないし。
俺に興味なんかないくせに、まるで心配してますみたいな顔をして……こういう時だけまともな大人のふりをするのはやめてほしい。
せっかく自分の中で処理しようとしてるのに、イライラが増す。
「……何でもありません。話ってそれだけですか。それなら帰ります」
「はぁ……。悪いけど、お前の変化はすぐに分かる。ここで三十人見てても、お前だけあからさまに顔色違うからな」
気付けば、教室にいるのは自分と彼の二人だけだった。最悪だ。一番避けたかったシチュエーションだ。
「また新しい隠し事でもできたか」
彼の指が頬に触れる。なぞるように、確かめるように。
虫唾が走った。またからかわれてる。俺を暇つぶしの玩具か何かだと思って。
前は「味方」だとか言ってくれたけど、今は全然信じられなかった。
「触るな!」
感情の暴発。けっこうな強さで彼の手を払ってしまった。自分でしておきながら驚いたけど、継美さんも目を見張って驚いている。
「あ……ご、ごめん……」
払った俺ですら痛かったから、彼はもっと痛かったはずだ。ちゃんと謝ろう……と思ったら、今度は倍の力で壁に押し付けられた。
そして抵抗する間もなく、唇を奪われた。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
23時のプール
貴船きよの
BL
輸入家具会社に勤める市守和哉は、叔父が留守にする間、高級マンションの部屋に住む話を持ちかけられていた。
初めは気が進まない和哉だったが、そのマンションにプールがついていることを知り、叔父の話を承諾する。
叔父の部屋に越してからというもの、毎週のようにプールで泳いでいた和哉は、そこで、蓮見涼介という年下の男と出会う。
彼の泳ぎに惹かれた和哉は、彼自身にも関心を抱く。
二人は、プールで毎週会うようになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる