60 / 157
虚勢と
7
しおりを挟む家に帰ると、久しぶりに父がリビングで寛いでいた。こちらに気付く様子がなかった為、足音を殺してこっそり自分の部屋に戻った。
我ながら冷たいと思う。でも「ただいま」の一言を掛けてしまうと、そこから長い話が始まってしまうかもしれない。一刻も早く着替えたいし、申し訳ないけど今はひとりになりたかった。
ぐちゃぐちゃになった頭と、ぐちゃぐちゃにされた身体。今の自分はある意味釣り合いがとれている。
ベッドに倒れ込んで、額を押さえた。
「はぁ……」
このまま朝なんか来なければいいのに。
そしたら柚に抱かれることもなくて、勉強なんかしなくてよくて、継美さんに会わなくていい。
誰とも会いたくない。
なのに、誰かと繋がりたい。
この矛盾した願望は頭の中でしか息をしてくれない。一歩外へ出た途端に弱気になって、引っ込んでしまうんだ。
翌日も気が重いけど学校へ向かった。
もう心を無にして、授業だけに集中しよう。深呼吸して自分の席についた。
ところが。
「おはよう、一架」
何故か継美さんが目の前に現れた。
「おはよ……ございます」
目も合わせず、とりあえず挨拶だけ返す。彼は俺の机に手をついて、ひとり話し始めた。
「放課後、ちょっと教室に残れるか? 話があるんだ」
「い……一分で終わるならいいですよ。まぁその時間で終わるなら、今話してもらっていいんですけど」
わざと嫌味っぽく言ってやる。すると継美さんは眉を顰めた。俺のあからさまな態度も悪いけど、彼の露骨な反応もいかがなものかと思う。
でも、これ以上彼の顔を見たくない。
そう思って視線を外していると、呆れ果てたような声が聞こえた。
「お前、最近ずっと素っ気ないな。一体何を拗ねてんだか……最近かまってやらなかったから?」
「拗ねるって……変な言い方しないでくれる!?」
思わず立ち上がって、声を張り上げてしまった。今のはまずい、と慌てて口を塞ぐ。でもタイミングよく、朝礼の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説



【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。


美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。


23時のプール
貴船きよの
BL
輸入家具会社に勤める市守和哉は、叔父が留守にする間、高級マンションの部屋に住む話を持ちかけられていた。
初めは気が進まない和哉だったが、そのマンションにプールがついていることを知り、叔父の話を承諾する。
叔父の部屋に越してからというもの、毎週のようにプールで泳いでいた和哉は、そこで、蓮見涼介という年下の男と出会う。
彼の泳ぎに惹かれた和哉は、彼自身にも関心を抱く。
二人は、プールで毎週会うようになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる