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前途多難
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しおりを挟む痛い。
ところどころ冷たいし、どこかぬれていて気持ち悪い。
何度目かの寝返りをうったときに、一架は飛び起きた。
「あ……っ!」
慌てて周りを見回す。その衝撃で枕が床に落ちたが、どうやらまだホテルのベッドで寝ていたみたいだ。
「あ、先輩おはよーございます! まだ夜だけどね」
「……柚」
瞼を擦ると、傍のチェアに柚が座っていた。けど他には誰もいない。静寂に包まれた空間が広がっている。
「朝間さんや……皆は」
「帰っちゃったよ。もう満足! お腹いっぱい! って言って」
柚は相変わらずおどけている。彼の高いテンションとは真逆に、こちらはさらに陰鬱としていた。解放されたことには安堵してるが、頭がガンガンする。身体もあちこち痛い。
起き上がろうとしたが、柚はまだ休むよう言って、無理やりベッドに寝かせられてしまった。
「でも驚いたよ、まさか先輩が襲われちゃうとは。すいませんね、俺のせいかな?」
「……いや」
「じゃ、助けてほしかった?」
「……いや?」
束の間の沈黙。一架は怪訝な表情で柚を見返す。
「とりあえず、お前が襲われなくて良かったと思うよ」
全裸でいることに気付き、改めて恥ずかしそうに一架は顔を背けた。
「うーん、やっぱり先輩って可愛いなぁ!」
「うわっ! ちょっとやめろよ!」
せっかくシーツであそこを隠したのに何の意味もない。ベッドに乗り上げ、抱きついてくる柚を本気で拒絶した。もっとも、彼はそんなの気にも留めないだろうけど。
「ねぇ先輩、自分が抱かれてるところ視られて興奮した?」
「するかアホ!」
「じゃ、先輩は今……何なら興奮するの?」
鼻先が触れそうなほど近い距離で、柚は問い掛けてきた。
本来、好きでもない奴とこんな近くに顔を合わせることは絶対ない。でも不思議と、もう嫌な気はしなかった。
多分、こいつは特別だ。良い奴でもなければ、悪い奴でもないんだろう。
ちょっとだけ、俺と似てる……のかも。
大きな瞳を見開いて返事を待つ柚を見て、再び顔を逸らした。
「分からない」
「ええ、分かんなくなっちゃったの?」
「もういいだろ、この話は!」
さすがに嫌になって一喝すると、彼は笑ったままキスをしてきた。
「ねえ先輩、あの朝間さんて人とのキスは気持ち良かった? わりとすぐに勃起しちゃってたけど、先輩が淫乱なだけなのかな」
「ん、うぅ……っ」
唇は離されたけど、今度は指を口腔内に突っ込まれる。まさかとは思うけど、彼も何かする気なんだろうか。
「ほら、赤ちゃんみたいにちゃんとしゃぶって。先輩がさっき汚されたお尻、俺が綺麗にしてあげるから」
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