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前途多難

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今目の前で起きているのは、普通から逸脱した行為だ。
見てきた数なんて覚えてないのに、今は一つ確信している。
……ここにいちゃいけない。

「一架先輩? どうかした?」
「帰るぞ」
「えっ」

なにか違う。
常識とか良識というのは、頭では分かってるが押し殺すことができていた。
なのに今ここにいる意味を見失いそうだった。柚を連れて部屋を出て行こうとしたが、その前を誰かに阻まれて立ち止まる。

「な、何ですか朝間さん」
「一架こそ。今来たばっかなのにもう帰っちゃうの?」

ドアを隠すように立ち塞いたのは、朝間だった。
俺が一番頼りにしていて、……恐らく、俺を一番好きでいてくれてる人。
彼はいつもの張り付いた微笑を浮かべ、玩具をとられた子どものように眉を下げた。
「最近集まり悪いし、肝心の一架が来てくれないから物足りなくてしょうがなかったんだよ? 一応パーティなんだから、幹事が不在は駄目でしょ」
「す……すみませんでした。これからはまたちゃんと出るんで、今日は失礼します」
彼の言うことももっともなので、頭を下げて謝る。そしてドアノブに手を伸ばしたが、今度は腕を掴まれた。
「あの……何ですか?」
「何だろうね。当ててみて」
腕には相当力を入れてる。なのにビクともしない。
「俺は、一架のこと世界で一番見てるつもりだから。ちょっと気付いてるよ」
彼の笑顔は、綺麗過ぎて怖い。息が止まりそうな冷たさを秘めている。
けどそれ以上に、放たれた言葉に頭が真っ白になった。

「一架、最近みんなのセックスを視ても楽しそうじゃないもんね」
「……っ」

手を振りほどくことも忘れていた。未知の世界と出会ったみたいに、呆然と目の前の青年を見据える。
「一架ってつまらないと口元を隠して違うとこ見るでしょ? 最近はいつもそう。気付かなかったかな」
彼の言う通り、それには心当たりはある。でもパーティの時はつまらなかったわけじゃなくて……最近は迷いまくっていただけだ。
あの人のせいで。
「ええ! 先輩、視姦は飽きちゃったんですか?」
柚の困ったような質問に、朝間さんが返す。
「いいや、そうじゃないと思うよ。一架はピュアなだけ。すぐ他の何かに影響されちゃうんだから」
「……わっ!」
近くのベッドに押し倒され、衝撃に呻く。

「視てる方が良いなんて言ってるのが一番の証拠だよ。本当は体感した方がずっと実質的で、気持ちが良いのに」

彼の長くしなやかな指が、髪を丁寧に梳き始める。
ずっと触れたかった壊れ物に触れるような、慎重だが粘着的な手つきだ。

「俺は一架が好きだから、君のやりたい事を優先してきたけど……ここから身を引こうと考えてるなら話は別かな。最後ぐらい、お預けくったご褒美が欲しいし」




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