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災難
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しおりを挟む本棚の間は虚しい空気が流れている。放課後の図書室では、自分達の声だけが反響していた。気付けば昨日とまるで同じシチュエーションだ。
本棚に背を預け、目の前の青年を見上げる。
「その視姦趣味。治るか、悪化するか……気になってたけど、間違いなく悪化してるな」
形を確かめるように、唇を指でなぞられる。指の腹だからか、思ったより柔らかくてドキッとする。
「それとも俺が悪化させちゃったか」
「……っ」
今よりずっと昔。他ならない彼のセックスを見てから、俺は自分の異常な性癖を自覚した。
優しくて憧れの先輩でもあった青年が、男と抱き合っているところを見てしまった。今思えば確かにショックだったのかもしれない。
理性を保つ為に、俺はなにかで蓋をした。
「違う……」
勝手な思い込みや想像も手を貸したんだろう。
あれはキッカケでしかない。それにハマるかハマらないかは、結局自身の問題だ。
俺は他人の性行為を見ることに興奮を覚える人間だったんだ。
────それなのに、彼のことをまともに見られない。
「お前はひねくれてるから本当のことは言わないだろ。直接確かめようか」
「ん……!」
唇を塞がれ、熱い吐息がかかる。あまり聞き慣れない音と感覚。
その前に、俺キス初めてだった……。
「やっ……」
おかしい。
お互い、好きなんかじゃないのに。キスなんてすべきじゃない。したくない。
けど逃げようとしても両サイドを腕で塞がれ、唇を無理やり重ねられる。大した抵抗もできずに時間は流れ、口腔内は溶けていく一方だった。
「もっと大声で名前呼んでよ。……昨日みたいに」
後頭部に手を添えられ、無造作に髪を撫でられる。
「一架」
「……っ!」
こっちはこっちで、名前を呼ばないでほしい。そんな優しい声と顔で見つめられたら……訳が分からなくなる。
「キス、もっとしたいけど。……誰か来るから」
少し赤くなった彼の唇が離れる。熱い。もしかしたら顔は真っ赤かもしれない。ちょっと心配になりながら、口元を隠す。
「また今度続きしような」
「え」
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