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少年の秘密
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しおりを挟む黒板に、チョークの綺麗な白文字が書かれた。
「梼原継美《ゆすはらつぐみ》。担当は英語だ。もう二年も残り少しだけど宜しく!」
「先生って何歳?」
「二十五」
「お~、若い」
教室はかつてなく活気に溢れている。
だけどこんなに仲間はずれな気分はない。
「中途半端な時期に悪いね。本当は来年から一年の教室を受け持つ予定だったんだけど、前田先生が脚を骨折して入院されたから」
前田というのは俺達の担任。陽気なおばさん先生だけど、この間の休みに大好きな登山で脚を骨折して帰って来た。
ホームルームが終わった後も、彼の周りから生徒が散ることはなかった。むしろ彼に近寄っていないのは俺だけという最悪な構図。何だこのアウェイ感……。
「そういや、先生の名前聞き覚えあんだよね。何でだろ」
ふと、誰かがそんな事を言った。
「あ! 思い出した、昔何かのドラマに出てた子役の名前だ!」
「……まぁ、ちょっとだけね」
「えぇ、マジ!? すご!」
教室の熱がさっきの倍は上がった気がした。皆の食いつき度が尋常ではない。とは言え彼はテレビよりローカルの活動ばかりしていたから、覚えている者がいたことに驚きだ。自分含め、やはり本名で活動するのはめんどくさいことの方が多い。
「つーか子役ってことは一架と一緒じゃん。先生、ウチのクラスにも子役だった奴がいんだよ」
やめろ! 話を振るな!
「ほら、あそこに座ってる崔本。中学までドラマにも出てて……」
「知ってるよ。同じ事務所だったからね」
継美の言葉に、クラスメイトは皆さらに盛り上がりを見せた。
「えぇ!? すげー偶然!!」
偶然?
そんな偶然あるわけねーだろ。一架は密かに歯ぎしりした。
「じゃあ先生は一架の先輩だったんだ」
「うん、でもほとんど入れ違いだったからあまり関わりはなかったけど。どんな子だったのかは覚えてるよ」
「わー、何か興味ある? 昔の一架ってどんなだった?」
「そうだなぁ。何か面白い趣味があった気が」
や ば い。
あの野郎、まさかここで“アレ”を話す気か?
そしたら俺の高校生活が終了する。何としても阻止しようと立ち上がると、ちょうど授業を開始するチャイムが響いた。
難を逃れた。しかし胃が痛い。
梼原は大学へ進学後、教員免許をとったらしい。引退するとき彼が勉強に専念したいと言ってたことは聞いたけど、まさか本当に教師になってるとは。
不適性だ。だって彼は人を虐めることに生き甲斐を見出してる。それは多分、今も変わってない。
そして一番の問題点は、俺と同じく男が好きということ。そんな奴が男子校に来るなんて、まるでうさぎ小屋に放たれた狼だ。
『一架、悪い子だね。男の裸見て興奮してるの?』
記憶が解凍されていく。
六年前の、あの忌まわしい過去が。
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