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「何言ってんだ」
照れくさいを通り越してる。でも偶然じゃないことがとてつもなく嬉しい。
捜してまで会いたいと思ってくれてたなんて、俺はどんだけ幸せ者なんだろう。

この力と秘密を唯一を打ち明けた相手が、俺を一番捜してくれていた。
「あの子か……」
病弱な彼を少しでも笑わそうと、御伽噺を聞かせるように縁の話をした。信じてくれて、喜んでくれて、その笑顔は俺の希望にもなっていたのに。

その子と離れて、いつしか人と距離を置くようになってしまった。

あの時から何かが眠ってしまっていたのかもしれない。

「いやー、照れるな。そんなに俺に会いたいと思ってくれてたんだ」
開き直ってるし、嬉し過ぎる。せめて口元がにやけるのを全力で隠したけど、腕を掴まれ簡単に顔を晒してしまった。

「恋愛できないんですよ。新しい恋に踏み出そうとしても、気付いたら貴方のことを考えてる。僕が独りだった時に必ず会いに来てくれた人のことを、中々忘れられなかった」

彼の両親が遅くまで家を空けていることは知っていた。それでうざったいほど構ってしまってんだろう。
隣合ってるのに家に一人で閉じこもることもない。どうせ一人なら、二人で過ごした方が絶対に良い。その感情と脆い記憶を。

「ごめん。俺も……」

忘れていたけど、失くしてはいなかった。

「嘘ついた。しばらく恋人いないみたいに言ってたけど、今まで一度も恋愛できなかったよ。やばいだろ」
「やばいですね。……俺達って」

言い直して笑う彼の顎を指で弾いて、肩を寄せた。
ずっと「縁」は見るものだと思っていたけど、そうじゃないみたいだ。
知ってる場所から動けない俺に彼が教えてくれた。縁は自分で手繰り寄せるものなんだ。

その夜も、いつもと同じ速さで時間が流れた。



「久宜さん、俺も無事社会人一年目なんだけど」




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