愛援奇縁

七賀ごふん

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『運命の人って信じる?』

運命の人はいる。そしてそれを見つける方法が存在する。

自分のように縁を見極める人間が見れば一目瞭然だった。何百人にひとりの確率で、人と人の相性を見極める目を持った者が生まれる。持ってる者にしか分からないが、その方法は至って単純。相性を見たい二人が近くにいる時、どちらか一方に接触し、周りにまとわりつく糸の色を見ればいいだけ。

色は三色。少なくとも、桧原久宜ひのはらひさぎはそう認識している。

青、黄、赤。二人の色が青に光れば相性抜群。結婚しても何ら問題ない、運命の人と言えるだろう。
黄は可もなく不可もなく……無難に付き合っていけることがほとんどだが、下手をして拗らせると、別れることもある。昔の人がしていたお見合いとやらは、こんな一か八かの勝負だったのかもしれない。

けど赤よりはマシだ。運命の赤い糸と昔は言ったらしいけど、実際は付き合って良いことなし、お互い破滅の一途を辿る最凶の組み合わせ。

久宜はこの見極めができた。中には詐欺まがいの占いもあるが、この見極めは既に世間では認識された能力だ。メディアに出たり相談所を開いたり、精力的に活動している者も多い。
一方久宜はせいぜい一日に一、二組見る程度である。昼はフリーのカメラマンとして活動し、こっちの副業は趣味に近かった。

( 趣味は趣味でも、悪趣味かな )

自分が見極めた男女が結ばれて、結婚式に呼ばれたこともあるけど、祝福する傍ら不思議に思った。俺みたいな他人が決めてしまう運命って何なんだろう、と。俺なんかに薦められて、彼らは本当に良かったのか。

その罪悪感と幼い日の諦念が、ずっと足に絡まっている。

「あのう……」
「はい?」

小さな声に振り向くと、そこにはマスクをしたひとりの青年がいた。黒一色の長いパーカーと、ラフな格好だ。
「何ですか?」
「さっき、ちょっと聞こえてしまって。……女の人の縁を見てましたよね」
彼は藍色の瞳を隠すように目を細めた。
「あぁ……はい」
「僕のことも見てもらえませんか? もちろん、お金は払います」
まさかの依頼。面食らったが、茶化しでなく本気なら断る理由はない。カクテルを飲みほし、内ポケットからメモを取り出す。そして請求額を書いてから手渡した。
「可愛いからまけちゃおー」
「え。あ、ありがとうございます」
やば、俺も酔ってるな。
彼の紫がかった黒い前髪が揺れる。
笑うと一層声が高くなり、幼さが目立って可愛かった。
でも実は高校生でした、とかだったらやばいぞ。縁を見たらさりげなく家に帰るよう促すか。

ひとまず深呼吸し、彼の手をとった。
「このホールの中に、僕と相性が良い人はいますか?」
「いる。多分。しばしお待ちを……」
にこやかに答え周りを見渡す。鮮やかな色の視界。……が、どれだけ見渡しても赤い糸しか見えない。
あ、まずい。いないかも。
肩を竦めて彼に励ましの言葉を掛けようとしたが、ハッとして言葉を飲み込む。

そもそも、彼の糸が見えない。
「どうですか?」
長い睫毛が揺れる。彼は少し首を傾げ、笑いながら問いかけた。
何だ、どうなってる?
手はちゃんと触れている。もう一度観察してみたが、彼の周りだけ幕が下ろされたように、暗い。
イレギュラーだ。多分人生で“二回目”の、糸が見えない特異体質タイプだろう。
「ごめんね、何か今日調子悪いかも。しかも実はさっきから頭痛が……」
だからお代はなしで、と続けると、彼は長い袖で口元を隠した。
「そうですか」
眉は下がっているのに、声はわずかに喜色が混じってるように感じた。

「あの、次はいつここに来ますか?」
「え。うーん、元気で、かつ暇だったら明日も来るかも」
「じゃあ、また明日。お大事に」

ほいほいと返し、その日は家に帰った。

さっきの女の子時は問題なかった。十中八九、あの青年の体質の問題だろう。
次依頼された時はどう言い訳しよう……。
色々考えながら、自宅のベッドに倒れる。微睡む意識の中で、彼のことだけ気になっていた。






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