ファナティック・フレンド

七賀ごふん

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◇誕生日

#4

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空は黒一色。
涼しい夜風を素肌に感じながら、准は自宅の駐車場に降り立った。
いつもよりは断然早い時間に帰ってこられた。というのも、仕事自体ハイペースでこなしていたからだ。今朝はやたらと成哉が寂しがっていたから。

明日は休みだから、久しぶりに羽を伸ばそう。軽く肩を回して部屋の鍵をあけた。

「ただいま」
「准さん、おかえりなさいー! お風呂にします? それともご飯にします? 料理は出来上がっていて、もうテーブルに並べてるんですけれども!」
「飯以外に選択肢ないじゃん……」

エプロン姿の成哉が元気いっぱいで迎えに来た。鞄と上着を渡すと「お疲れさまです」と笑う。その愛想だけは、妻として百点満点だ。

妻。
自分が出した形容詞に笑ってしまう。男の恋人を妻と表すのは不思議な感覚だ。きっと夫の方がしっくり来るけど、どうも成哉は夫という肩書きは似合わない。

「准さん、難しい顔してどうしました? 仕事で何か……あ、もしかして裸エプロンじゃないからガッカリしました!? 今からしても構いませんけど、それじゃサプライズに欠けますかね」
「お、何か良い匂いがすんなぁ」

成哉の発言はスルーし、准はダイニングへ向かった。食欲を誘う匂いが漂っている。その先のテーブルには、所狭しにご馳走が並べられていた。脇にはワインボトルが置かれ、普段は使わないお高いグラスが二つ添えられている。

「あらら。これって……」
「えぇえぇ、そうです。その通りですよ、准さん」
「まだ何も言ってないけど」
「またまたぁ! 分かってるくせに白々しい御方ですね! お誕生日おめでとうございます!」

全然嬉しくない流れで、成哉は祝福の言葉を送った。そして遅ればせながらクラッカーを鳴らす。耳元で。

「うるさっ!! ちょっと、距離考えろよ!」
「あっごめんなさい。それに本当は玄関で鳴らそうと思ったんですけど、忘れちゃいました。さ、早く食べましょう!」

終始彼のペースに振り回されてるけど、自分のことのように喜んでる姿を見ると怒れない。
准は苦笑しながら椅子に座った。

「俺の誕生日なんて忘れてると思ったよ。ありがとな」
「もう、忘れるわけありませんよ。准さんがこの腐敗した俗世に産み落とされ今日で二十八年。盛大にお祝いしないと仏壇にいるご先祖さまに顔向けできません」
「あぁ。日本語喋ってくれるか」

准の言葉は聞こえてるはずだが、成哉は黙ってグラスに白ワインを注いだ。





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