141 / 149
◇誕生日
#2
しおりを挟む小鳥の囀りが心地よい晴天の朝。玄関では長いこと、立ち往生で困っている青年がいた。
しきりに時間を気にしている。もう家を出ないと会社に遅刻するかもしれないからだ。しかし、彼に抱きついて離れない青年がもう一人。
「はあ~……准さん、本当にお仕事行っちゃうんですか?」
「しょうがないだろっ働かなきゃ生きてけないんだから」
「いいえ! 大丈夫ですよ、しばらくは俺が働きますから! それか競馬でどかんと当てちゃいましょう!」
「堅実に生きないと身を滅ぼすぞ」
同居してから全く変わらない准と成哉だ。今日も安定のペースで、朝の貴重な時間を浪費している。
今日は珍しく准が休日出勤。成哉はひとり家に残るのを渋って、准の動きを奪い、付き纏っていた。
「はぁ、失敗した……俺も金融の勉強しとけば良かったんです。そしたら准さんの会社にお邪魔して、右腕としてサポートできたのに」
「例え知識があっても立ち入り禁止だよ。ほら、もう本当に遅刻するから離せ」
准が強く言った為、成哉はしょんぼりして後ろに下がった。
確かに、これ以上引き止めるのは良くない。余裕のある用事ならともかく、仕事とプライベートはある程度切り離すべきだと成哉も考えていた。
できればプライベートも大事にしてほしいが、ひたむきに仕事に打ち込む恋人も好きだから。いや、好きというより、……純粋に尊敬する。
「朝からワガママ言ってすいません。お仕事頑張ってくださいね、准さん」
「おう」
准は静かに頷く。そのままドアの方に向くと思いきや、一歩前に出て成哉の唇を塞いだ。
「ん……っ」
朝にしては深い口付け。舌の柔らかさが分かってしまう、濃厚なキスだった。
その時間が終わったと同時にドアが開き、外光が差し込む。
「じゃ、行ってきます」
「……い、行ってらっしゃい」
少し頬を赤らめ、准は家を出て行った。彼の後ろ姿が見えなくなっても、成哉はしばらくその場に佇んでいた。周りに人がいないのを良いことに、自身の唇を指でなぞる。
彼が残した熱の余韻に浸った。
「さてと。掃除しよっかな」
ようやくドアを閉め、鍵をかける。そして普段からためていた洗濯物や掃除を始める。共働きで帰る時間はバラバラの為、やることは山のようにある。
貴重な休日も、恋人と過ごす団欒より事務的な作業の方で潰れてしまっていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
14
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる