ファナティック・フレンド

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
139 / 149
エピローグ

.

しおりを挟む


時を忘れて、果てのない夜空を見上げる。

成哉は大きく背伸びした。それだけでは空が近くなったりしないが、敷き詰められた無数の星と目の前に佇む恋人を交互に見返す。
ここは昔と何も変わらない。
十五年前に訪れた山頂で、懐かしい匂いを感じている。木々に囲まれた何も無い場所。まるで世界から切り離された小さな箱庭。夜になれば満天の星が空を埋め尽くし、宝箱のような空間を作り出している。空が白まないなら、燦然たる星が見られるなら、もうずっとここにいたい。
けど朝日は昇る。星と月の光を奪い取るほど眩い輝きを放って。
だから大丈夫。
夜に震える時は終わった。苦しいことも悲しいことも、きっと攫っていってくれる。

「准さん。星、綺麗ですね」

声をかけると、彼は笑って頷いた。
十五年ぶりに訪れた地。十五年ぶりの時間。ずっと彼と、この景色を見たかった。

でも……ごめんなさい。
やっぱり、約束を果たしてもらったって言うよりは。────俺は、夢が叶ったとしか思えないんだ。
彼と交わした約束はあまりに古くて記憶にない。だから、その思い出は上書きされない。ひとつの結晶として頭の隅に保管している。
多分ここからだ。俺達のちょっと変な物語は、今やっと始まる。

「……長かったなぁ。俺ずーっと、准さんと星が見たかったんです」

首が痛くなるぐらい、空を見上げた。
かじかんだ手を暖かい手が包み込む。本当に、満たされすぎて怖い。
この時間は終わってほしくないけど、大丈夫。
これからは何回だって見に来られる。だからまた手を繋いで、引っ張り合って、迷ったときは上を見ればいい。

「成哉。ずっと待たせて悪かった。逢いに来てくれてありがとな」
「……俺の方こそ。また星を見せてくれて、ありがとうございます」

これからは道を見失ったりしない。今の俺は、誰にも負けないぐらい熱狂的に彼を想っているんだから。

もう夜が怖くない。何度でも目に焼き付けよう。

あの光を目印に、大好きな人。









 ― ファナティック・フレンド ―





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...