ファナティック・フレンド

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
109 / 149
10+10=青年

#13

しおりを挟む


ある時、涼は仕事帰りに彼の会社の近くまで車を走らせたことがあったが、……やめた。
会いたいが、やっぱりなにか違う。ここで准を引っ張り出すことに何の意味があるかも分からないのに、厄介事に巻き込んでも仕方ない。

もうちょっとだ。もうちょっとだけ、頑張ろう。俺はまだ……創さんを信じていたい。

信頼。

しかしそんな想いも裏腹に、彼の純粋だった好意はどんどん暴走していった。
決して手に入らない、あの人を想って。

怖いと思った。本当は怖かったんだ。
創さんは、手に入らないなら准さんを殺そうとか思ってるかもしれない。
それだけは絶対にだめだ。頼むから、その一線だけは越えないでくれ。
そう願えば願うほど、時間は馬鹿みたいに能天気に過ぎていった。身の回りのもの全てが平和ボケしていく。
もうやめてほしい。
夜は殴られて、切りつけられて、最後は優しく抱き寄せられて、壊れた愛情を与えられる。
全て終わってからトイレに駆け込んで、気持ち悪さに吐きそうになる。どれだけシャワーで洗い流しても、その不快感が落ちることはない。

────誰がそれに気付いてくれるだろう。

無理だって分かってるから……もう期待もしない。俺は頭が悪い。清純な心の持ち主でもない。
でも考えることはできる。めんどくさいことに。

涼は痣だらけの腕に視線を落とした。
創が准と結ばれない苦しみを自分にぶつけることについては、もう何も感じなくなってきている。けど人を殴る度胸があるなら……抱く度胸があるなら、もういっそ想いを打ち明ければ良いのに、と考えていた。全部めちゃくちゃにして、自分の物にして。そうすれば満足するんだろう。

それができないのは結局彼も弱いからだ。俺を殴った後に見せるあの戸惑いと同じ。

「さっさと壊れちゃえばいいのに……」

ひとり、車の中で歌うように呟いた。
創だけじゃない。涼自身、本気でそう思うほど狂いかけていた。
それでも、何とか日々を乗り切った。もはや生き抜いてると言っても過言じゃないと思うほどに。

「じゃあ、創さん……仕事行ってきます」
「うん。行ってらっしゃい」

彼に笑顔で見送られ、仕事だけは一日も欠勤せずに向かった。顔に傷や痣があるときはさすがに上司や同僚も青い顔で心配してくれたけど、そこは適当に理由をつけて誤魔化していた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...