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10+10=青年
#12
しおりを挟むそれは涼が二十歳を迎えてから目に見えて酷くなった。
夜になると特に、穏やかな創は豹変する。
親に結婚の話を持ちかけられて参っている事も理由の一つ。そして准に自分の気持ちを伝えられない苛立ち、准の気持ちが自分に向かない苛立ちをぶちまける。それが物で済むならいいが、段々と明確な狂気を帯びていった。
「痛……っ!!」
耳を劈く音が聞こえた瞬間、涼の足元に割れた陶器の破片が散らばった。今日も彼の愚痴を真面目に聴いていたつもりだったのだが、どうやらおさまらなかったらしい。コップが飛んできた。
「ご……ごめん、成哉。俺……!」
「だ、大丈夫です。……片付けるので、危ないからこっちに来ないでください」
言いながら額に手を当てると、生温い液体がベッタリついていた。
切れてる……。
床に赤い雫が落ちるのを無視しながら、破片を片付ける。
痛い。痛くてたまらないのは切れた部分か、ぽっかり空いたこの胸の穴か……涼は分からなかった。
少しすれば泣きそうな顔で謝ってくる彼を、本気で責めることができない。
手当てしようと立ち上がり、ガーゼと包帯を使い切ったことを思い出す。丁度いいので外へ出ることにした。
准さんが大事だからこそ、自分の気持ちを押し殺してるんだ。創さんも苦しんでる。で、その憂さ晴らしが俺にくる。
家を出て彼から離れると心の底から安堵した。
けど、後ろめたい。どんなに酷く扱われても、彼は本当の自分を知っている唯一の人物。東京にいる唯一の味方だから。
「寒……っ」
実はその頃、准さんに会いに行こうか迷っていた。創さんは自分と彼が会うことを快く思ってないようだから、内密に。彼の真意を確かめたかった。
従兄弟で幼なじみで、今は同じ会社に勤めてるらしい。取り沙汰噂されることもない、品行方正を絵にかいたような人だという。
創さんの強すぎる愛情……。よっぽど鈍感な人間じゃなければ、さすがに気付いてるんじゃないだろうか、と皮肉っぽく考えた。
あわよくば、実は相思相愛でしたとか言って、めでたくくっついてくれないかと。……でも。
変な気分だ。釈然としない。それが果たして、彼の……彼らの為になるんだろうか?
自分は今の准さんを知らない。創さんから耳にたこができるほど、彼の人間性については聞かされていたが、あくまで人伝だ。実際に会ってみないとそれは分からない。
十五年前に自分に星を見せてくれた。
木間塚准。彼は、どういう人物なんだろう。
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