ファナティック・フレンド

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
104 / 149
10+10=青年

#8

しおりを挟む


近々東京へ移る予定だった。
父の転勤が決まったからだ。その為に二人は東京で転居先を探していた。
いくつか気になってる家があると言い、父と母は下見に行っていた。それで帰って来たら、ここが良かったとか、あそこはどうだったとか……そんな話を聞かされると思っていた。
それで待っていた。だが二人が帰って来ることはなく、自分から二人に会いに行くこととなった。

薄暗い霊安室に佇み、息を飲む。
目を開けない、声を出さない、人。
もう怒ることもないし、褒められることもない。

「あ……」


自分を育ててくれた、父と母の姿がそこにあった。
彼らの時間だけが止まってしまった。生きてる人と、死んでる人。ここから先、自分と彼らはこの決定的な違いに逆らえない。
まだ親孝行なんてしてない。受験の事で心配かけたり、迷惑しかかけてないのに。

……どうしてこんな事になったのか。

その場で泣き崩れた。一生分とも思える量の涙を流し、その時に全て枯れ果てた。

葬式はあっという間だった。というより、自分が放心していたせいだと思う。準備や手続きが沢山あったが親戚が全て執り行い、自分は何もかも放棄する時間を与えられた。
しかし、涙が出ない。今も棺に入った二人を目の当たりにしてるのに、未だに信じられない。これは夢じゃないかと、朝起きる度に祈ったりもした。けどリビングに出ても誰もいなくて、何の気配もない。
夜はただ窓際に座って、星を見上げていた。こんな時ですら綺麗に輝いてんだから。歯痒い気もするけど、やっぱり毎日光ってて偉いな、なんて意味不明なことを考えていた。

人は生きていれば必ず死ぬ。それだけは絶対に覆ることのない唯一の真実。聞いてる時はそりゃそうだって納得してたのに、今はどう頑張っても納得できそうにない。
火葬が終わり、遺骨を見るその時まで信じ続けた。……二人は、まだ生きていると。

だが一年が経った頃には、そんな想いも灰のように燃え尽きていた。悔しくて悲しくて、子どものように喚き散らしたかったあの激情も、すっかり身を潜めて深い眠りについている。

きっと死んだんだ。
あの想いも、自分の中で。
それでも墓参りだけは頻繁に行った。何故なのか、あまり誰かと来たいとは思わない。
ひとりで打ち水をし、墓前の前に佇んだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...