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10+10=青年
#7
しおりを挟む自分に訪れるのは平和な日々。父は以前より出張が増えて家に居る時間が減ったけど、それ以外は何も変わらない。
母はたまに父と東京へ行って、美術館で好きな花の絵を見に行った。帰ってくると必ず、絵画の素晴らしさを滔々と聞かされた。
そして必ず言われた。「誠実でいなさい」と。清純な心を持って、人を信頼しなさい、と。
清純……。
たくさんの友達に囲まれ、悩みはあっても怖いものはない平坦な日々を送る。だからちょっと変わってほしいぐらいだった。
この変わらない毎日に少しは刺激を足せないかと密かに願った。そしたら叶ったんだ。
あの日が────。
高校二年生になった涼は、いつも通り歩き慣れた畑道を歩いて自宅へ向かっていた。
暗く、世界が夜に染まりかけた頃だった。家に帰ると普段は滅多に会わない親戚が大勢集まっていた。
そしていきなり怒鳴られたことを、未だ鮮明に覚えている。
「お前、今までどこにいたんだ! 部活中だと思って学校に電話したのにいないから、先生達にもずっと捜してもらってたんだぞ……!」
すぐには理解できなかった。
多分、疑問よりもビックリして腹が立ったんだ。何で帰って早々そんな風に怒鳴られなきゃいけないんだと憤りを感じて。
確かに部活をサボった。学校のパソコン部は幽霊部員ばっかだから、基本やることがない。それで友達とブラブラ遊んでいたのだが、そんなこと彼らには関係ないはずだ。
どうせ昨日から両親は東京に泊まりがけで出掛けてるし、まだ帰って来てないようだ。……そう、両親がいないのに、人の家に勝手に上がって何してんだ、と思ったんだ。
まだこの時は、不安なんてなかった。
「あなた、やめて。……成哉君、落ち着いて聴いてね」
あの頃の鈍感で馬鹿な自分は、気付かなかった。全力でそう言い訳したい。皆が暗い顔して黙ってることとか、少しはおかしいと思っても良かったのに。
馬鹿だ。分かりやすく言ってもらわないと察せないのか。
「警察から連絡がきて…あなたのお父さんとお母さんが、交通事故にあって……亡くなったらしいの」
時間が止まった。
そこからは、正直よく思い出せない。
色々と経緯を聞かされ、すぐに東京へ向かう身支度をさせられたんだと思う。そして病院へ行って、二人の顔を見た。
でも全部夢のように、今もぼやけている。
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