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嘘吐き

#4

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逃げ続けたツケがようやくやってきたのかもしれない。
今は崖っぷちに立たされている。落ちても死ぬことはない。ただ、大事なものは全て零しそうだ。

「准、成哉との生活はどうだった? こいつちょっと頭悪いけど、面白いとこに気が付くし暇はしなかったろ」

凍えそうな寒さの中、准と創は廊下に佇む。
「……」
涼も靴を履き、ドアを閉めて完全に家から出る。
この状況は一体何なのか。叶うのなら、今すぐにでも終わってほしい。
「で……何がしたいんだ。……お前ら」
お前ら、と言っても、殆ど涼に向けて質問していた。
涼もそれを感じ取っている。だが目を合わせようとしない。喋らない彼に代わって、創が口を開いた。
「何が……って言われると困るけど。俺が結婚したらお前が寂しい想いをすると思って、成哉を貸してやったんだよ。どこの誰かも分かんない奴と同居されるよりマシだからさ」
そこまで聴いて、また創の方に向き直る。彼は悪びれる様子もなく、こちらへ歩き出した。
「それもかなり急だったから、成哉には悪いことをしたと思ってる。お前に変な虫がつかないように見張ってもらってたんだ。期間までは決めてなかったけど。なぁ、ここまで言えばさすがに分かるだろ」
白い息が闇にとけこむ。鼻先が触れそうな距離で、彼は囁いた。

「俺はお前が好きだ。お前を誰にもとられたくない。手に入らないなら尚さら」

動揺するな、と言われても無理。
今さら冗談だと笑い飛ばされても、絶対に笑えないような告白をされた。

さっきまでは理解できない現状に腸煮えくり返ってたのに、今はどうしたらいいか分からず動けなかった。
「俺もお前と同じ同性愛者だってこと。そして、お前のことがずっと好きだったこと……どっちも、全然気付かなかっただろ。お前の鈍感さは昔から神がかってたからな」
創は苦しげに笑いながら、頬に触れてきた。

「だから本当に大変だったよ。お前に近付く奴みんな引き剥がして、俺しか見えないようにしてやろうとしてた……けど、お前はいつまで経っても変わらなかった」
「……何で……っ」

全てが衝撃的だし、予想外の展開過ぎてどもる事しかできない。……自分が情けない。
創が俺を好き? いやいや、そんな馬鹿な。

でも────隠されたら分からない。

隠されたから見抜けなかった? ずっと一緒にいた……のに。
それで気付かないなんて、彼の言うとおりどこまで鈍感なのか。どうしようもない歯痒さに支配される。





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