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ひび割れ
#12
しおりを挟む「俺と玲那は同じなんだよ。性別こそ違うけど、互いに互いの苦しみが分かる。傷を舐め合うことができる存在なんだ」
金縛りにあったみたいに、身体が動かなかった。
今は声も出なかった。まさかとは思うが……ひとつの嫌な推測が頭に浮かんでしまったから。
そんな俺を見据えて、創は薄ら笑いを浮かべている。そして、俺の頬に触れた。
「愛がないから結婚すんだよ。それならお互いのやることに文句ないもんな。……俺が男と付き合っても、あいつが女と付き合っても」
「……は?」
今……何て?
聞き間違いであってほしかった。
いやもう、今日起きたこと全て。
でもこれが現実で。容赦なく叩きつけられた気がした。
俺は本当に、何も知らなかった。それを思い知らされる。創の眼は、冷たくてしょうがない。
「准。全部お前の為なんだ」
彼はゆっくりドアノブを回した。
部屋のドアが開く。その奥で揺れる一人の人影。
「……涼?」
いつものように、玄関先まで出迎えてくれるそいつも。
変わらない。……変わらないけど。
「おかえりなさい、准さん」
そういえば、ひどく冷たい嘘をつく。
ドアの先で佇んでいた涼は、感情の無い瞳で俺を見て、それから創の隣へ歩いた。
「お久しぶりです、創さん」
「あぁ。約束どおり働いてくれてありがとな。
やっぱお前は良い子だよ。……成哉」
これは全部、歪な部品で繋ぎ合わせたものなんだ。偶然なんかじゃない、人の手で仕組まれたもの。混乱しながらも、目の前に佇む二人を見た時に確信した。
思った通り、現実は言葉にできない痛みを伴った。
知りたくない。知ったら全て終わる。……その考えは間違ってなかった。
「准、本当のこと知りたいんだろ? 気が変わったから、やっぱり本当のことを話す」
一体全体、何を考えてんだ。
何がしたいんだ。
……こいつらは。
そればかりで何も言えない。俺を見越して、創は涼の耳元に優しく囁いた。
「教えてやんなよ、成哉。お前は誰の物で……何をしに、ここへ来たのか」
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