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ひび割れ
#8
しおりを挟む数分後。
マンションを出て、准は自分の愛車を発進させた。
…………。
結局涼を置いてきてしまったが、本当に良かったのか。今頃、また言いようのない不安に支配される。
それでも気持ちを落ち着かせ、ただ会社を目指す。
ようやく到着して停車させると、ちょうど創が入口から出てきた所だった。涼がいるから、家に戻る前に話をつけなきゃならない。
霧山との婚約について話す、良い機会だ。恐らく創の方も、もう俺が何を思ってるのか勘づいているはず。
「創」
窓を開けて声を掛けると彼はこっちに気付いて、助手席に乗り込んだ。
「お疲れさま」
「お疲れ。悪いな、疲れてんのに往復させちゃって」
「いいんだよ、俺もお前に……二人になれるところで話がしたかったから」
低く返してから、Uターンして車を走らせる。
「……そう。話って何?」
数秒も空けずに、創の方からそれについて振ってきた。
「あぁ。その、余計なお世話かもしれないんだけどさ」
今朝と同様、どう話したらいいかも分からなかった。だけどやはり心配で、黙ってられない。
「霧山のこと。お前、本当にこのままでいいのか」
「いいって……何が?」
「納得してないんだろ。今日、あいつから聴いたよ」
できる限り平常心で返すと、彼は高らかに笑った。
「あーあ、やっぱりバラしちゃったか。玲那はお前のこと信用し過ぎだよなぁ」
興味などまるでない、……しかしどこか楽しそうな彼の声に、唖然とした。
疑念が確信に変わった瞬間だった。
「お前、真剣に考えろよ。自分のことだろ?」
「え? 何が?」
創はこっちの態度なんてお構いなしにとぼけ続ける。
ほんとにしょうがない奴だ。
思わず大きなため息をついてしまう。結局、“そこ”から話さないといけないのか。
「お前ら、家の為に結婚するんだって?」
「それか。その通りだけど、別に嫌々ってわけじゃないよ。玲那も俺も、それがベストだって思ってるし」
「そう言ってもな。悪いがすごい軽々しいっていうか……他人事みたいに聞こえる。それに、霧山は……恋人がいるって」
ハンドルを握る手に力が入る。
行きはすいすい来れたのに、時間が遅くなったせいか渋滞に捕まった。ブレーキを踏んで、シートに深くもたれる。
でもむしろ好都合だ。やっぱり、この話はすぐに終わる気がしない。
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