ファナティック・フレンド

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
57 / 149
永遠、代わりの君

#1

しおりを挟む


数分後、准と涼は加東のいるリビングへ戻った。気まずさは最高潮に達しているものの、加東の前では努めて平静を装った。
飲み物を啜る音が虚しく響く。そんな中、加東は小首を傾げて言った。

「何かなぁ。俺、涼君と会ったことある気がすんだよね」
「は、はい!?」

カップをテーブルに置き終わった涼は裏返った声を上げた。明らかに動揺してしまっているが、加東はそんな彼を興味深そうに見つめている。
「うん、やっぱしそんな気がしてきた。でもどこで会ったのか思い出せないんだよねぇ」
「いや、多分人違いですよ。俺は加東さんとお会いしたの、今日が初めてなんで。ね、准さん?」
「あ、あぁ……俺もそう思いますよ。涼の職場は遠いから会う機会なんてないと思います」
准は真面目に考えるフリをして、内心申し訳なく思った。
彼の言うとおり、既に一回会っている。……女装した涼と。
あの時はばっちりメイクしていたけど、やっぱり面影は残る。涼は少し印象的な顔立ちの美人だ。加東の頭の冴え具合でバレる可能性は大いにある。
「そうか……だよね、ごめん。やっぱ俺の気のせいかもしんない」
しかし加東は困ったように頭を掻いて天井を仰いだ。どうやらバレずに済みそうだ。
まぁ今となっては別にバレても良かったんだけど……。
と思ったのが顔に出ていたのか、横から涼に睨まれた。それは軽くスルーし、咳払いする。
「そういえば加東さん、なにかお話があるんでしたよね」
「あ、そうだね。うーんと……」
加東は少しだけ後ろにもたれかかると、涼を一瞥した。また、その視線に気付いた涼がサッと立ち上がる。

「なにか大事なお話みたいですね。ちょっと俺、お酒買いにコンビニ行ってきます。おふたりとも、まだ飲み足りないでしょ?」
「あぁ……そうだな、それなら俺が」
「大丈夫ですよ、俺が買ってきますからゆっくりお話しててください。じゃ、行ってきます!」

止める暇もなく、涼は上着を持って出て行ってしまった。
「……っ」
追いかけようとして立ち上がる。しかし客人の加東をひとり残すわけにもいかず、ぐっと踏みとどまった。

嫌だな。今あいつから目を離したくないんだけど……。
不安になる。ちゃんとここに戻ってくるだろうか。
独りにさせたくないのに────。

「おーい、准くん?
「は、はいっ!」

背後から名前を呼ばれ、肩を叩かれる。反射的に姿勢を正した。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...