ファナティック・フレンド

七賀ごふん

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迷路の手前

#8

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「おーい。お湯沸騰してない?」

突然割り込んできた声と足音に、准と涼は驚いて後ずさる。
「ほら、やっぱり!」
キッチンで立ち尽くしてる彼らの横をすり抜け、コンロの火を止めたのは加東だった。
そういえば、ずっとヤカンが鳴っていた。それに気付いていたものの、気にする余裕がなかった。准はもちろん、涼も。
「すいません。勝手なことばっか言って」
涼は生気のない、暗い顔で俯いた。
「いや……俺も」
言いかけて、口篭る。色々と驚いて二の句が継げない。互いに黙ったせいで長い沈黙が流れる。けど、それを打ち消してくれたのはやはり加東だった。

「水を差すようでごめんね。……もしかして、ケンカしてた?」

彼の言葉に、准と涼は同時に言い返す。
「違います!!」
「そ、そっか。なら良かった
見事なタイミングに驚き、加東は目を丸くする。何回も驚かせて本当に申し訳ないと准は肩を落とした。

「うん、君達仲良いね。息ピッタリじゃん」

加東の言葉に、准は複雑な想いに駆られる。
息ピッタリ……それは、今だけは反応に困る褒め言葉なんだ。とりあえず、お茶の用意を再開した。
「加東さん、申し訳ないんですけど、もう少しだけ待っててください」
「んー……分かった。でも、手伝えることあったら言ってよ?」
「はい。ありがとうございます」
彼がリビングに戻ったことで、また二人きりになる。
胃が痛い。
今さら特に視線を合わせたりはしなかったが、とりあえず手だけ動かした。
「准さん、あの……」
すごく今さらだけど、今になって思ったことがある。

“怖い”。

涼は何を考えてるんだろう。
彼は謝らないといけないことがある、と呟いた。
何を言う気だ?

……今さら何を言うつもりだ。

涼は何をしにここへ来たのか。
俺のことをどう思ってるのか。
「……後で聴く」
知りたい。でも……それでも、知りたくないんだ。

知ったら戻れない。彼をここに引き留めておく理由がなくなる。
絞り出した声は、自分の耳で聞いてもひどく弱々しかった。
「……すいません」
涼は頭を下げる。何に対する謝罪なのか分からないが、もうどうでもよかった。

涼……。

今口を開いたら安っぽい台詞しか出てこない。
だから強く唇を噛んで押さえ込んだ。
喉元まで出かかった、「ここに居てほしい」という台詞を。




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