55 / 149
迷路の手前
#7
しおりを挟む「そもそも俺と加東さんが仲良くなって、何が生まれるんですか」
友情。と言い返したいのをグッとこらえて、落ち着かない涼の本音を待つ。
「好きな人を家に連れてくるんだから、追い出していいんですよ。……要は、先に言ってほしかったんです。そしたらすぐに消えますから」
とても小さいけど、中々抜けない棘みたいに突き刺さる言葉だった。
「消えるってどこに。どこか行く所あるのかよ」
「それはっ……そこからは、もう貴方には関係ありません」
……落ち着け、俺。
瞼を伏せて深呼吸した。荒立ってる時ほど冷静に。
これは彼と関わるようになって学んだ事だ。感情的になっちゃいけない。もっとややこしい事になるから。
「今出てったら、俺の恋人作りに協力するって約束はどうなるんだよ?」
テレビを見てゆったりしてる加東に聞こえないよう、二人は声を潜める。お湯を沸かしてるヤカンを尻目に。
「上手くいきそうじゃないですか。俺がいなくたって、もう大丈夫ですよ」
「何を根拠に言ってんだよ。何一つ進展してないだろ」
冷静に、ってのも上手くいかないものだ。ひとり熱くなっていくのが分かる。
「進展してますよ。大丈夫大丈夫」
適当にも程かある。こいつ、もうめんどくさくなってるな……?
でもこのままにしちゃいけない。その想いから怒りと焦りが募っていく。ブレーキをかけることなく、准は語尾を強めた。
「全然大丈夫じゃないだろ。大体、俺はまだお前に出て行かれたら困る! お前が誰なのか、全部話してもらうまでは!」
「話したじゃないですか! 何回も何回も……話したって、理解する気がないんでしょ? 俺が誰かなんて、そんなの考えなくても分かるはずなのに!」
反論。
胸の奥が痛んだ。
驚きと、ほんの少しの苛立ち。初めて言葉を言葉で返されたような不思議な感覚。
「何……言って」
けど、言ってる意味はビックリするぐらい分からなかった。それが結果的に涼をイラつかせてるんだろうけど。
分からないものは分からない。子どもみたいな言い分だけど、正直な感想だ。涼がなにか話してくれた記憶なんてまるでない。
───彼の目的が何なのか知りたい。
だから、分かりやすい言葉でちゃんと話して欲しい。そう思うのに。
知ったら、終わる。
何の根拠もないけど、そんな嫌な予感がした。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる