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迷路の手前
#1
しおりを挟む自宅から車で三十分近く走って、准はいつも通り出社した。
その道中、最近の悩みのひとつ、涼の下ネタについて真面目に考えていた。
私見はさておき、このままでは彼自身の為に良くない。あの性欲(?)が時間と共に収まるなら良いが、涼の場合ますます悪化していきそうな気がして心配だ。
彼と結婚する相手は苦労することだろう。未だに恋愛事情なんてこれっぽっちも知らないけど。
駐車場を後にし、ビルのエントランスを抜ける。フロントの女の子に挨拶し、いつものようにエレベーターを待つ。その時だった。
「准くーん! おっ久しぶり!」
「いっ!?」
何者かに横から手加減ゼロで押され、危うく壁に激突しかかった。
「あっ……危ないな、誰……」
突然のことに混乱しつつ声の主を見ると、確かに珍しい人物が立っていた。
「あら。そんなに吹っ飛ぶなんて、もしかして弱ってる? だめだよー、ちゃんと食べなきゃ」
「れっ……霧山! 何でここにいんの?」
そこにいたのは、異性に興味のない准ですら目を引かれる脚線美の女性。
彼女は霧山玲那《きりやまれいな》。同列の事業所で、たまに会うことがある。しかし准の場合は別の用事でしょっちゅう顔を合わす、気心の知れた存在だった。……何故なら、彼女とは高校の時からの付き合いだから。
「ふふ、今日から五日間、営業のヘルプでこっちに来ることになったんだよ。やー、でも本社に出勤て緊張するね」
そう言って周りを気にせず背伸びをする彼女は、緊張という言葉からだいぶかけ離れてる気がした。
「ねぇねぇ、それより彼女できた? 紹介してくださいよ先輩~!」
「できてないし、そんなことよりお前にはお熱い相手がいるだろ? ……ほら、噂をすれば」
「うん?」
こっちへ歩いてきたひとりの人物に、准と玲那は軽く手を振った。
「あっ! 創君、おっはよー!」
「えっ……れ、玲那!」
ちょうどエレベーターに乗りにやってきたのは創だった。彼に対し、玲那は頬を膨らまして腕組みする。
「なあにその反応。今日から来るって、前にも話したでしょ? まさか」
「いやっ……もちろん覚えてたよ、おはよう。准も」
「あぁ、おはよう」
創は最初こそ狼狽えていたけど、玲那の前ではすぐにいつもの甘い表情に戻った。
あぁ、そうか。
「へぇ。俺は全然知らなかったけど……良かったな、創。五日間だけだけど、婚約者と一緒に出勤できるぞ」
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