25 / 149
気になるひと
#5
しおりを挟む「痩せ我慢とかしなくていいから。俺の前では、特に」
「……ありがとうございます」
加東の視線が前方へ移ったことに気付き、准は彼の横顔を盗み見る。心の内ではかなり戸惑っていた。
彼が自分を見てないことに安心している。それは随分おかしな話だ。本当は誰よりも見てほしい……自分だけを見てくれたら、この上なく嬉しいはずなのに。一体何がしたいのか、准は自分の気持ちが分からなかった。
街はドレスアップし、夜の音と光が弾ける。やがて小綺麗なバルに到着し、店員に案内されるまま席に座った。
「よーし、まず准君が食べたいもの選んでね。あと俺のオススメも頼むからちょっと食べてみて」
彼の言葉に甘えて好きな料理を頼み、飲み物は暑いからビールを頼んだ。とりあえず喉が渇いてしょうがない為、すぐに乾杯した。
「……ふぅ。それじゃさっそく、准君の悩みを聴かせてよ。力になれるかどうかは分からないけど、せめて話だけでもね」
さっきまでと違う、加東の真剣な眼差しに准は緊張した。心の奥深くに隠してるものまで見抜かれそうな視線。……だからこそ、いっそ全部さらけ出してしまいたくなる。
でも、今の自分の悩みって何だろう。
貴方のことが気になってます、なんてことは口が裂けても言えない。相談が一世一代のプロポーズになる。
心の準備もしてないし、恋愛の話はNGだ。なら、行き着くところはアレしかない。
「……実は、最近知り合った奴のことでちょっと悩んでます」
運ばれてきた料理を口にしながら、ぽつりぽつりと心の底に沈んでいた言葉を吐き出した。
「あまり詳しく知らないのに、諸事情から毎日関わらなきゃいけないことになっちゃって。悪い奴じゃないと思うんですけど、緊張というか……よく分からない気持ちが胸ん中に生まれて」
「ほー。それで?」
「そいつは、俺の為に色々やってくれるんです。たまに迷惑だったりするけど、多分親切心で。だから別に好きなわけじゃないけど、俺もそいつになにか返せないかなって、ちょっと思い始めまして」
……あれ。
何だか、喋ってるうちに考えがまるっきり変わってるぞ?
額に嫌な汗が伝う。途中から完全にひとりで喋っていた。気付いたら運ばれてきた料理が冷めるほど、時間が経っていた。
おかしい。
涼についての相談に間違いはないけど、まるでもっと親密になりたい、というニュアンスで話してしまった。
加東さんに相談するにはあまり良い気がしない。……でも、もういいや。今日は深く考えず、とにかく飲むことにしよう!!
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる